記録202『ピア―の青春』
ピア―は、真面目な学生であった。
ただひたすらに魔導を極める為、教科書ばかり見ていた。
「見て~ピア―の奴……また勉強ばかりしてるわよ~」
「本当につまらない女よね~、あんなんで人生楽しいのかしら~」
ピア―は、常に他の魔法学生から馬鹿にされていた。
「そんな事より! 私達は既にマジシャンハウスの推薦を先生から約束されているんだから! あんなのとは違って人生勝ち組よ! ソードマンハウスの推薦組と遊びに行くんだけどどうする!」
「行く行く!」
そんな会話をしながら、魔法学生の女子達は、合コンに行ってしまった。
「フン、穢れた雌豚共め」
ピア―の家は、貧乏であった。
その為、教師への推薦を得る事を出来なかった。
憧れのマジシャンハウスに、入門するには自身の魔法への知識と実力が必要であった。
そして、普段の魔法へのイメージを高める事によって、それなりに好成績を得ていた。
それでも他の貴族生徒達と違ったのは、やはり教師との贔屓の差であった。
埋められない実力差は、やはり自身の階級にあるのだ。
そもそも、英才教育を受けた魔法使いと自身の生きる為の独学で身に着けた魔法では、勝ち目がないのだ。
理由は、貧民で身に着ける魔法は、大抵反則行為に当たるからである。
貴族の魔法は、正々堂々と綺麗な魔力で行う事が前提である。
そして、その魔法の綺麗さは、貴族達の美的センスによるものである。
つまり、貧民達がいくら効率の良く、緻密な魔法を操ろうと、それは貴族達によって愚行でしかないのだ。
そんな偏った魔法では、ピア―の貧民で身に着いた癖のある魔法は、どうしても薄汚い物でしかなかった。
「どうせマジシャンハウスでも教える事もそうなんだろうな……でも私が強くなって誰よりも強くなればきっと私の魔法だって認めるはず……こんな貴族共より私の方が……マジシャンハウスの師範だって殺せれば私が……」
ピア―は、最初マジシャンハウスの師範を殺し、自身がマジシャンハウスの権利を乗っ取る計画を立てていた。
その為には、どうすればマジシャンハウスの師範を殺せるか、殆ど情報のない相手を殺すため、即死魔法を今は研究中であった。
同時に、マジシャンハウスへの入門の為の試験勉強。
遊んでいる暇なんて、ピア―にはなかった。
「おいおい! 喪女がいるぞ!」
「全くだぜ! そばかすが来たねえな! 貧民だからか!」
同級生達は、当然のように戻ってきてピア―を馬鹿にする。
そして、持っていた教科書を破り捨てて踏みつけにして再び消えた。
「おい、汚いゴミにするならお前はもう学校に来なくていいんだぞ?」
見ていたにも関わらず、止めず、更にはピア―が登校出来なくなるよう精神を追い詰める教師、だがそれでもピア―は負けるつもりはなかった。
貧民街で鍛えられた精神力、意地、プライドで全てを跳ね退けた。
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「ほほう、今回は素晴らしい人材がいるようですね……」
「でしょ! マイセルは火魔法が得意でパンタメスは水魔法がこの歳で上級何ですよ!」
オベッカしながら、教師はマジシャンハウスの師範に自身の生徒を自慢するように押す。
「で? 彼女は?」
「ああ、このピア―って女ですか? そいつはダメですねえ……まあ試験があるのでそれに合格すればこちらに来ることにはなるかもですが……まあいらなければ言って下さい! 私が処理しますので」
「ふーん……」
その書類を見ていた師範は、教師を見据える様に書類を返す。
「さて、どんな子かなあ~」
そして、少し楽しみそうにしながら瞑想を始める。
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ピア―は、試験に受かった。
マジシャンハウスへの入門が許されたのだ。
「ッチ……まあいい……お前もマジシャンハウスへ行ってもいいだろう……だが失礼な態度だけは取るなよ! 良いな!」
「……はい」
ピア―は、決意していた。
(絶対に師範を殺して私がマジシャンハウスを乗っ取る……)
そして、ピア―は他の貴族達と一緒にマジシャンハウスへと向かった。
「アンタなんかすぐに破門にされるわよ!」
「そうそう! どうせあんたみたいな貧乏人は皆の当て馬として呼ばれたに決まっているわ!」
「……」
ピア―には、他の入門生の声が聞こえていなかった。
何故なら、師範を殺す事だけを頭に描いていたからである。
そして、皆マジシャンハウスへと到着し、その門を開いて入った。
その瞬間、ピア―は敗北を受け入れた。
(違う……何もかもが違う……何こいつ!!)
恐怖が体中に流れ込んだように、足が竦んだ。
「ああ……あああ」
「フン、所詮は貴方はその程度よ」
(嘘でしょ……コイツ等分からないの? こんな……こんな……化物同然の魔力の圧倒を!!)
立ちすくんでいるピア―と違って、他の入門生達は、堂々と入って行った。
「おやおや、恐れているのですか? 面白いですね」
「そうですよね~! 先生! コイツ学生時代から……」
「黙れ穢れ……そして浄化されろ」
「え? 一体何を……ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「マイセル!! そんな! いやああああああああああああああああああああああああああ!!」
もう一人の入門生が悲鳴を上げた。