記録18『惨事』
惑とアレンは、イネの帰りを待っていた。
しかし、イネは血相を掻いて少量の獲物を落としながら帰ってきた。
「何かあった?」
流石に惑も、イネの様子を見て険しい表情になる。
イネは、息を切らしながら答える。
「血の……匂いがする……人間の……」
「!? まさか!」
その言葉を聞いて、アレンは顔を真っ青にする。
そこからは行動が早かった。
「イネ! 僕等を背負って走れる?」
「大丈夫! 早く!」
惑とアレンは、イネに担がれながら村へと急いだ。
しかし、時は既に遅かった。
「うわ! 何だこりゃ!」
村は焼かれ、作物は踏み荒らされており、村の人間が誰一人、いなかった。
「そんなあああ、そんなああああ!!」
アレンは、必死で村人達を探した。
「ロゼウフさん! ラバーカさん! アルー!」
村人達の名前を叫びながら辺りを捜索する。
しかし、誰一人返事はなかった。
「こっち!」
イネが叫び、森の方へと向かう。
そして、そこには村人の死体が山のように積み上げられていた。
「ああああ……ああああああ!!」
アレンは、絶望しその場に崩れる。
「酷い……まさかこんな……」
流石のイネも、その場で唖然とする。
しかし、惑は違った。
「イネ、今から診ていくから手伝って、死んでる者はこっちに置いて、生きている者は渡していくからそっちに並べて」
「え!」
「早く! 時間との勝負だ、アレン君も手伝え! ほら行くよ!」
「あ! はい!」
「え……あ、ああ」
アレンも、惑の言葉にふらつきながらも、指示に従うを
「死んでる死んでる生きてる死んでる生きてる生きてる生きてる……」
惑は、手早く脈を測ると生存者と死亡者で、選別を始めた。
「死んでる生きてる生きてる……」
「アレン! ここ空いてる!」
「はい!」
そして、次々と死んでる者と生きている者とで、イネもアレンも息を上げながら、選別を手伝う。
生存者25名、死者26名。
そして、最後まで選別を終えると、惑は生きている者達の前に立つ。
「分析、鑑定で全員一気に状態見る事は可能?」
『はい、可能です』
「分かった、鑑定」
すると、25名分の鑑定が一気に現れ、その中にあるHP表示が、赤の者もいれば、黄色の者もいた。
「はい、じゃあ子供優先でHP低い者から行くね、イネ! 害虫とかネズミとか取ってきて! アレンはこの粘着液の魔道具から採取した粘着液のみを傷に塗って行って!」
「分かった!」
「分かりました!」
イネは、すぐに穴を掘ったり木を退かしたりして、ミミズやゴキブリ、ネズミ等を見つけた。
アレンは、渡された粘着液の試験官を持って、出血している人達の傷に塗って行った。
「ああああ!」
「我慢してください! 大丈夫です! きっと助かります!」
出血を止めたお陰か、HPの減っていくスピードが下がった。
「惑! 害虫いっぱい害獣いっぱいにしたよおお!」
「はいはい、もっと集めて!」
そう言いながら、すでに持っていたネズミや害虫を取り出した。
「採取」
そして、惑はネズミと害虫のHPを採取すると、死にかけていた者達に手を翳す。
「合成」
そして、HPを合成すると、先程まで斬り付けられた傷が塞がった。
「はあ……はあ……」
息を切らしながら、冷汗を掻きながらも落ち着きを取り戻す。
「はい次!」
惑は、同じように他の者達にHPを合成していき、治療を行った。
そして、生存者の中、最後の一人の治療が終わる。
「はい、25名中3名死亡……心臓マッサージをしたけど息を吹き返したのは3名……」
それらを記録すると、今度は死亡者へと向かった。
「はい……同じように心臓マッサージをしてから蘇生してみるね、魂視認」
惑は、死亡者の魂を視認し、心臓をマッサージ試す。
しかし、大抵の死亡者は、血を噴き出しただけであった。
しかし、数名者が息を吹き返し、他の生存者と同じよう治療を施した。
結果、生存者27名、死亡者24名となった。
そんな中、子供は3名、大人は21名となった。
「あああああああ! そんなあああああ! アルウウウウウウウウ!」
「父ちゃん! 父ちゃん! ああああああああああ!」
「何で母ちゃんが死なないといけないんだあ……ああああ……」
涙を流しながら、死者を弔う。
「さてと、しばらく待ってから事情を聞こう、アレン君も今は泣いていても問題ないよ、落ち着いてから調べようか」
「うう……はい……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アレンもその場で大泣きした。
惑は、イネを連れて村の方へと向かった。
すると、見た事のある顔が一人いた。
「あ、勇者様だ」
「え? まさか勇者さんがこれを?」
「まだ確定じゃないし……多分違う」
そして、二人は息を潜めながら様子を伺った。
「そんな……村人を……魔族が……」
「許せません! 我が国の民をこんな残忍な!」
有志の隣に、シャイニャス姫が腕を組んでいた。
「魔族? あのオーガ以外にいた?」
「いや、いなかった……間違いない」
「じゃあ魔物は? あのファング以外は襲う様子はなかった?」
「それもない、私の鼻と耳、そして気配は感じ取れなかった……」
「イネが言うなら間違いないね……君のスキルを知った上でその失敗は逆に難しいだろう、しかもこの惨状を作るには一人や一匹程度でどうにかなるものでもないし……あの傷だと……確実に人が関わってる……お? あの血か?」
イネは、鼻を啜る。
「あの血は……さっき死にかけていた村人の中にあった……」
「なるほどねえ……」
面白そうに嗤いながら惑は、観察を続ける。




