記録2『情報は宝』
惑は、城下町の店や人のやり取りを見て回る。
「ふむふむ、あのニンジンとジャガイモ銅貨70枚、魚銀貨1枚、肉銀貨2枚か」
惑は、色々な品物がお金で取引される姿を観察し、表情や言葉に注意を向けながらメモを取っていく。
「剣と鎧で金貨5枚、ポーション金貨6枚」
文字、数字、そして店員との会話内容等を分析し、的確に情報を収集する。
城下町を一回りした後、近くの人が多くいる噴水当たりに腰を置き情報をまとめた。
「さてと、推測だが銅貨は日本円で100円、銀貨は1000円、金貨は1万円ってところか……他にも聖金貨だとかがあるみたいだがそれは使われるところは見てないから取り敢えずはその三枚がよく使われるという事で理解しておこう……やっぱり文字と言語の理解が出来るのがアドバンテージだな、他の事についても理解が早い」
メモを閉じて、空を見ながら暫く頭を休める。
「さて、次は能力について確認だ、出来る事が理解出来ればお金を稼ぐ方法も自ずと見えてくるはずだ」
そして、自身のステータスを開き、鑑定と合成の説明を読む。
『相手や物等の情報を詳細に確認出来る。』
『複数のものを一つにする』
「そのままの意味なんだな、そこは」
なっとくと同時にステータス画面を閉じると、惑は人通りの少ない路地へと入った。
それを見ていたガラの悪そうな数人の男達も路地へと入って行く。
「おい兄ちゃん」
「うん?」
「ちょっと俺等お金に困っててさあ? 恵んでくんない?」
「大丈夫すぐ返すから」
「えええ? 怖いなあ~お金なんてないよおお」
声を震わせながら、惑は後退りする。
「その身ぐるみを剥がせばいくらかには何だろ?」
「命が欲しけりゃとっとと脱げ!」
男達は、ポケットにしまっていたナイフを取り出す。
「やめてよおお……無いものはないんだよおお」
情けない声を上げながら震える惑に、一人の男はケタケタと嗤いながらナイフを突きつけて襲い掛かる。
「仕方ねえ! 痛めつけてから剥ぐか!」
「ヒャアアアハハハハハ!」
「後悔すんじゃねえぜえ!」
そして、ナイフが惑の腕に刺さろうとした瞬間、惑はその手を捌いてそのまま進む方向に相手を押し出しながら自身の重みを掛けて倒す。
「うお!」
「ここかな?」
そのまま肘と手を使って、関節を外した。
「ぐがああああっだああああああ!!!」
「テメエ! 何しやがる!」
「タダで済むと思うなよ!」
もがき苦しむこ男を見て、仲間の男達は激昂する。
二人もナイフを懐から出し、ナイフを突き立てながら襲い掛かる。
「せい」
「があは」
「うぐ」
しかし、惑は冷静に一人の腕を掴みそのまま背負い投げで、倒れている男に叩きつけ、同じく腕の関節を外す。
「テメェ!」
「よいしょ」
「うお! があ」
もう一人も、ナイフを躱したと同時にデコを手で押してそのまま頭を地面に叩き付ける。
「グアアアア!」
そして、そのまま足首を踏み付けて折る。
「さてと」
惑は、男達の懐にあった財布を抜き取り、手をかざす。
「? なんの真似だ」
「今から実験をしようと思って」
「じっ実験?」
男はた惑の言葉を聞き困惑するが、本能により自分が危険に晒されている事だけは理解出来た。
惑は、嬉しそうにしながら説明をする。
「僕は君達みたいな人が好きだよ、だって僕の命を狙うって事は自身の命も顧みないとないという事でしょ」
「!? なっ何を言っている!」
「気付いてなかったみたいだね、僕が君達の存在に気付いてワザと人通りの少ない路地に入った事を……君達で実験したかったからさ! 実験の為の人間ってインフォームドコンセントやら安全性の確保とかの手続きでなかなか手に入らないんだよ、でも君達みたいのであれば例えいなくなっても誰も困る事はないだろ? 何故なら存在そのものが迷惑極まりないんだから」
「ふっふざけるな」
「例え俺達みたいなのであっても犯罪は犯罪だぞ!」
「テメェには罪の意識はないのか!」
「そんな事を気にしてたら実験なんて出来ないじゃないか、人類進化の為には必要な事なんだ、君達なら間引きとして相応しいと思わないか?」
「間引きだと……お前……人を……人の命を何だと思っている……」
呆れた表情で惑は答える。
「君達がそれを言うか? 君達は今までどれだけの人から金品を奪った? それにそれだけじゃないだろ? その目は人を殺した事のある目だ、僕はその目をいつだって見た事がある……だから分かるんだ、でも僕はそれを責めないよ、だってそれは君達の生き方なのだから、だから君達も僕の生き方に文句は言えないとは思わないか? さあ、お話はお終い! そろそろ始めようか?」
男達は怯えながら、震えが止まらなくなる。
「やっやめてくれえええ」
「俺達が悪かった! もう悪い事はしない!」
「だからお願いだ! 見逃してくれ!」
「? 駄目だよ、折角の被検体を逃す訳ないだろ? 大丈夫、運が良ければ生きてるから、自分を信じようよ!」
惑の言葉に男達は真っ青になる。
「嫌だ! イヤだああ!」
「助けっ助けっ助けて!」
「あああ! 死にたくない! しにたく」
「合成」
男達は、必死に抵抗をするが惑のスキル合成により、そのまま光の中に取り込まれて行った。
「「「グアアアアア!」」」
三人はそのまま、光に包まれて一つとなった。
「おえ、うえ、おおああああ……」
三人の男達は、6本の足が地面に円を描く様に生えており、それぞれの顔が阿修羅みたいに前と右と左にありそれぞれが涙を流しており、何故か違う顔の口から別の男の片腕が生えており手が動いている。
腕のせいで、まともに呼吸が出来ないのか三人は、常に嘔吐いている。
しかし、胴体は三角を描く様にそれぞれ背中合わせで、くっ付いていてもう片方の手も生えていた。
「うご! うがあ! がああ!」
合成されたばかりのせいか、まともに動けずその場で転倒する。
「へえ、なるほど〜合成は複数のものを一つにするとは書いているが……」
惑は、合成された男達を観察しながらメモを取る。
「この姿は今まで見たB級映画のクリーチャーや漫画のモンスターとかを参考にしつつ適当に想像した姿なんだが、想像した姿そのままの形にしてくれるわけか、鑑定」
惑は、満足そうな表情で男達を鑑定する。
Name:ジョン・ラオ・ロウ
HP:150、MP:21、攻撃力:30、防御力:40:スピード:90、知力:120、魔法:なし、スキル:強化職業:追い剥ぎ
と記載されていた。
「ふーん、三人の名前と能力が合わさる感じかな? ここから合成は出来るかな?」
「うええええ! うえあええ! がががう!」
しかし、手をかざしても何も起こらなかった。
「なるほど、複数を一つにした後、それを再合成するのは無理なのか」
出来る事を慎重に確認しながら、分かった事をメモしていく。
「さてと、こいつらの事はコレぐらいにして、金も手に入ったし食料と本屋で見た錬金術師についての基礎本を買うか、現在僕が考えている錬金術師とこの世界の錬金術師との認識の違いを検証してみよう」
惑は、男達に興味をなくしたのか、見向きもせずに立ち去る。
「うおおお……うおううおおお」
男達は、何か言いたそうな泣きじゃくる声は、惑には届く事はなかった。
「ラッシャイラッシャイ!」
「良い肉があるよ!」
「美味しい果物もあるよー!」
様々な店が客に宣伝しながら呼び込む。
「いらっしゃ……」
「おじさん、この果物頂戴」
惑が店の前に立ち、品物を指しながら注文した。
しかし、惑に対する店主の目は冷ややかであった。
「アンタ……よくもまあ国の姫様にあんなこと言ったよな」
「? 何のことですか? 姫様とは会いましたが、変な事は言った覚えはないんですが?」
その言葉に、店主は惑を睨み着け、鼻を鳴らしながら言い放つ。
「自分の胸に聞いてみるんだな!」
「ぶふ! はははははははは!!」
しかし、惑はその言葉に吹き出してしまった。
「何がおかしい!」
「だって! ぶふう! だってええ!! 自分の胸に聞けって……胸を聞いたって心臓の音しか聞こえませんよお? 何言ってるんですか? 面白いこと言いますねえ! おじさん!」
惑は、店主が冗談を言ったのだと勘違いし、笑っていると店主は歯を食い縛りながら握り拳を作る。
「お前に売る物はない! 二度と来るんじゃねえ!」
「ええ! どうしたんですか急に!」
「黙れエ! とっとと失せろ! 営業妨害だ!」
「ちょっとちょっとおおお!」
店主は留まろうとする、惑を無理矢理押して店の前から追い出した。