記録179『出来るか出来ないかじゃない……強制』
修行編、それは多くの作品でつまらない、退屈、要らん、修行パートいる? とまで言われる程に人気の下がる回である。
中には、根拠もなく強くなるより、強くなるファクターがあればより面白いという意見もあるが、それは大人気作品を手掛ける事の出来る敏腕な創作家のお陰ともいえる。
たかだかなろう作家である者に務まる代物ではないと考えられる程、難しい回である。
「俺は弱い……だから修行しようと思う!」
だが、有志にとって、作者の都合など関係なかった。
先の戦いで、有志はボロ負けしてしまった。
その事が悔しく、そして魔王を倒せるはずだった自分がこうあっさりと倒された事に対して、危機を感じていた。
異世界召喚をしてから、上手くいかなかった事もあるが、それでもそれなりに救ったという自覚があった。
その自覚のお陰で、有志は今まで自分の正義に自身を持つことが出来ていた。
しかし、バファハイドの圧倒的強さ、圧倒的技量、圧倒的魔力を前にして、恐怖で埋め尽くされそうになっていた。
「私も……修行をするべきだと思う……」
「私もです、いくら国で魔法の神童と呼ばれていたとはいえ……今のままでは私は自分に自信が持てません、だから……」
有志の意見に、二人は賛同していた。
「なら私が神から貰っている情報を使って修行に適した場所に案内するね! 大丈夫! きっと有志なら勝てる!! バファハイドの強さは……ひい!」
レティリアは、未だにバファハイドの圧倒的恐怖から抜けられないでいた。
だからこそ、有志が強くなることによって自身の恐怖を取り除きたくて仕方がなかった。
こうして、とてつもなく難しい修行編へと移行する事となった。
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レティリアは、有志とレイシャを剣士の館へと案内した。
「ここは多くの冒険者、騎士、剣豪、そしてレイシャの叔父であるロンティガさんも通ったと言われている隠れ家的場所だよ」
「ここが……剣士の登竜門である、剣士の館……ソードマンハウス……」
「私もここには初めてだ……父上にもここにはいく必要はないと言われたぐらい強いというお墨付きを貰ったぐらいだからな」
因みに、レイシャの父親は通っていない。
真に才能のある剣士は、態々留学や学び出なく、自己で解答を出すというのが教えであったからだ。
その点、ロンティガは全く異なる考え方の為、家から勘当を喰らった。
そして、二人は剣士の館のドアを開く。
「チェイアアアアアヤアアアアアア!!」
妙ちくりんな掛け声と共に、レイシャは体が真っ二つとなった。
「レイシャアア!!」
レイシャが、ドチャッと鈍い音を鳴らしながら地面に落ちた。
「は!!」
そんな幻覚が、二人を襲った。
「ようこそ! ソードマンハウスへ!! 私がマスターパパンカツだ!! 趣味は私よりだいぶ年の離れたの女の子とデートする事さ!! よろしくな!!」
パパンカツは、大声で嗤いながら二人を待ち構えていた。
「さあ!! 修行だ!! でないと私とパパ活する事となるぞ! そこの……ダメだ……君は年下ではあるが女の子ではない……12歳じゃないならいいや……とにかく修行だ!!」
この世界では、12歳は現代で言うところの高校生としての扱いであった。
レイシャはいきなり失礼な事を言われてかなり苛立っていた。
「フン、その程度で苛立つとは……だから年増は……」
だらしない腹、だらしない恰好、そして片手には酒瓶を持った飲んだくれのオッサンがいた。
「黙れ!! 貴様のような落伍者と比べれば! レイシャは強いんだ!!」
「フーン……」
すると、落伍者のオッサンは突如消えて、割った酒瓶の破片でレイシャの喉仏近くの皮膚を少し斬った。
「ほう? その程度で俺より強いだ? どうだ? こんな程度の低い落伍者に負ける屈辱は? 縮地も使えんとはかなり可哀そうな奴だ……本当にロンティガの姪か?」
落伍者のオッサンは、にちゃりと嗤いながらレイシャの頬を舐めた。
「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ふむ、冷静ではないな!! そんな君にはこうだ!! チェイ!!」
有志は、目の前が突如見えなくなった。
「なんだ! 何なんだこれは!!」
「きゃああああああああああああああああああ!! よくも私のパンツをおおおおお!!」
何処からか声が聞こえたと共に、レイシャのパンツを奪い、それを有志に被せた。
レティリアは、怒りを覚え、嫌悪するが、冷静に見渡す。
「俺はランクゴ・シャンシャン、一生飲んだくれになる為にここで修行している」
「俺は、シターギガ・ダースキイだ! 世界一の下着泥棒を目指している! 今では着用しているパンツとブラぐらいなら盗めるようになっている! だが上にはまだ上がいる……そう……上には上がな……」
「パパンカツである私は年下にモテたいから修行しに来た! 週一で!!」
レティリアは、呆れ返る。
「ここのマスターは何処!!」
「ああ! マスターか……私が受け継いだよ……このパパンカツがな!! はははははは!! 何故だって!! 俺達の邪魔をした師匠なんてもういらない!! そう! いらないから殺した!! ここはもう私達の貸し切り!! そしてこのソードマンハウスは師匠を殺す事で世代交代が可能! そして彼等は補助員として雇っている!! 金は自動的に入ってくる! 天国だああああ!!」
嬉しそうにしながら3人は嗤う。
「相変わらずのようだな……お前等」
「おお! ロンティガ! 久しぶりだな!!」
「ああ、お前等も上手く言っているようで良かった、流石は人間国宝級の強さ……正確に難があっても極めた者には国も口出しできないとはなかなか気合が入っている」
有志は、心が折れそうになった。




