記録178『イネの家出』
エレンは、朝目覚めるといつものように兄が必死で働いて買ってくれた櫛で髪を解く。
それと同時に涙が溢れて来た。
この涙はいつも朝に出てしまう。
否、寧ろ蓋をしていた心を少し開ける事によって、感情を抑えられるように制御している。
これは、惑から教わった。
『感情は無理をして抑えるといざって時に邪魔をしてくる……ならば小出しにして溢れない様にする事で目的の決意を強く結ぶ必要があるんだ……これ、君のお兄さんから預かった櫛だよ』
もう二度と使う事が出来なくなると覚悟していた櫛を惑が預かっていたのを知った時は驚いたが、ある意味では惑も人の心を大切にするタイプだという事を理解は出来ていた。
そして、櫛の匂いを吸い込んだ。
「兄さん……皆……見ていてください」
櫛には懐かしい匂いが漂い、溢れてきた涙を止めた。
髪を解き終わると櫛を片付けて部屋を出た。
「ぐべええええええええ!!」
イネが惑にぶん殴られて吹っ飛んでいた。
「え? ええ! 何々!! 何が起こったんですか!! 惑!? ええ!!」
いつもの朝を迎えたと思った瞬間、いつもとは違う光景を見せられて、エレンは困惑した。
「ああ、おはようエレンちゃん」
「ええいや! えっとおは……いや! ええ!!」
挨拶をすればいいのか、それとも状況判断をすればいいのか頭の中がパニックを起こしていた。
すると、イネは涙目になりながら惑に言い放った。
「もう惑なんて知らない!! 勝手にすればいい!! 私はここを出る!!」
そして、涙を流しながらイネは飛び出して行った。
「ええええええ!!」
「な! なんだ!!」
「イネお兄姉ちゃん?」
ドワーフもプランも呆気に取られながら見ているだけしか出来なかった。
そして、3人は惑から事情を聞こうとして取り囲んだ。
「何があったんですか?」
「イネさん泣いてたぞ?」
「惑お兄ちゃん? 何かしたの?」
「いや……ナニもしてないよ?」
惑の言葉に、エレンは呆れる。
「いや……さっき殴ってたじゃないですか? さすがにそれは無いでしょう?」
「ああ、そういう意味?」
「え? どういう事ですか? そもそも何があったんですか?」
3人は事情を聞こうと耳を傾ける。
「イネが僕に掘らせろって言って迫って来たんだ」
「「「殴って当然です」」」
惑の事情を聞いて、3人は難しい表情になった。
「でも凄いですね……イネさんみたいな獣人を殴れるなんて」
「人間は弱いを前提に強い生き物との戦闘に特化した技術を生み出し続けた……やりようはあるよ」
「へえ……」
一通り話を聞き終えると、いつもの朝へと移行した。
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「ふんだ!! 惑の馬鹿!! 先っちょぐらい良いじゃないか!!」
プンプン起こりながら、イネは集落から出て行った。
「さてと……これからどうしよう……」
集落を出てしまっては、行き場のないイネは、悩みながら歩いているとガラの悪そうな男達に囲まれていた。
「ひひひ、姉ちゃん可愛いな」
「俺には分かるぜええ? ゲヘヘヘヘ」
「ジュルリ、涎が! ぐふぇふぇふぇえ、俺のここが弾けて爆発しそうだああああ」
「デュフフフ」
「はあはあ、ねえ? 今どんなマ〇コしてるの?」
「俺達は盗賊だ! 金目のものはなさそうだから仕方ない……お前の純潔を盗賊させて貰おうか?」
「はあ……」
イネは、溜息を吐いて盗賊達の相手をした。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
数時間後
「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! やめてえええええ!!!」
「オラ! お前が先に仕掛けてきたんだろうが! ああ!!!」
イネは、尻を引っ叩きながら盗賊の穴を掘っていた。
「やべでええええええええ!!」
「あああ……あああ」
「穢れちゃった……おれ……穢れちゃった……」
「ううう……お母さん……ごめんなさい」
「かはあ! かはああ! かはああ!!」
掘られ続けるリーダー、壊れてしまった副リーダー、涙を流しながら震える盗賊A、母親に謝罪を続ける盗賊B、過呼吸になる盗賊Cがそこにいた。
「ほら、もっといい声で泣け!」
「いだああああい!! 止めて止めて止めてええええええ!!」
「おら! おらあ! おらああ!!」
その時であった。
「!! またまた新たなインスピレーションが!!」
イネのスキルが再び進化を遂げた。
「ああ!! 出来る! 今の私僕なら出来る!! さああ!!」
すると、イネの如意棒が伸縮自在の如意棒へとなった。
「これなら!! 入れた奴の中をもっと掻き回せるぞおお!!」
「いやあ! いやあああ! いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
新たな進化と、世界を知ったイネは盗賊リーダーの中にある純潔という純潔を逆に盗賊しまくった。
そして、盗賊はイネが果てるまで中の隅々を掻き回された。
「ふー」
「ああ……」
「ああああ……」
「あばばb……あばばばば」
「べええ」
「………」
イネは一通り事を終えると一息吐く。
最早言葉を失った盗賊の上で、イネは賢者モードになった。
「はあ……でも……私も少しは悪かったのかもしれない……そうだ……謝ろう」
そして、イネは集落へと戻った。
そんな姿を一人の男が見ていた。
「みつけた……ここか……必ず……俺は……」
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イネは、バツが悪そうにしながら帰って来た。
「惑……ごめん……私が少し悪かった」
「少し?」
イネの謝罪に、エレンが眉を潜める。
「いいよ」
「いいんだ……」
エレンは、呆れながらその場を去る。
「今度はちゃんと許可を取ってから襲うよ!」
イネは、再び惑に殴られた。




