記録173『500億分の1の古代魔王様』
「うがああがんがあああああ!!」
ウェルットは、体中の血管が浮き出て、唸り苦しむ。
「糞!! ウェルット君! しっかりするんだ!! 西院円惑!! 洗脳ではなく制御チップだと!! ウェルット君に何をした! そもそも何を制御していたというんだ!!」
「古代魔王の一部の力」
「は?」
惑の言葉に、唖然とする。
「古代魔王……ははは……一体何を言って……」
「本当の事だよ……あの子を今侵食しているのは……古代魔王……しかも史上最悪の魔王と呼ばれた……邪神バファハイド……勇者を瀕死にまで追い詰めた悪魔だよ……」
レティリアの説明を聞いて、有志は冷汗を掻く。
「史上最悪の魔王……邪神バファハイドだと……西院円惑!! 貴様!! 貴様あああ!!」
悲鳴のように惑に、問い質す。
「貴様貴様うるさいな……何が聞きたいのかちゃんと言えよ」
惑は、首を傾げながら確認する。
「どうして古代魔王を復活させようと考えた!! どうしてそんな下劣な事を!!」
「え? 復活させたらどうなるかなって思って」
「お前は愉快犯か!!」
隣にいたマイッゼルは、惑を怒鳴る。
「だってそんな貴重な物があるなら取り敢えず復活だろ? そして見てみたいじゃないか、勇者を瀕死まで追い詰めた魔王の戦い方を……エレンちゃんもちゃんと見るんだよ」
「見ていて生きていたらの話ですけどね」
エレンは、溜息を吐きながら頷く。
「ぐがあああああ!!」
そして、焼き爛れていた半身の皮膚が綺麗に再生し、抉れた首の後ろは完全に再生する。
「っはああ」
同時に、ウェルットは大きな溜息を吐く。
そして、ニタリと嗤いながら有志達を見る。
「我復活せし」
しかし、少し動いた瞬間、腕の一部の皮膚から血が流れる。
「フン……500億分の1しか出せんではないか……」
呆れたように体を動かす。
「おお、流石史上最悪の古代魔王……」
「貴様……どうして我の体にこれを選んだ? 答えろ」
凄まじい殺気と眼光を惑に向ける。
「え? 僕がその子を選んだのはその子が勇者を殺したい、神を殺したいと願ったからだよ」
「ではその娘は?」
「エレンちゃんはもう別の方法を使って研究中だからそれを止めるのはあまりにも愚策だと思った……」
「我が動きやすい体を考えようとは思わんのか?」
「え? でも君からは何も聞いてないよ? 僕はウェルット君から君の一部を取り入れてでも勝ちたいって聞いたからまずは魔導改造して体を慣らしたんだよ……そうしないと君は今ここで爆発していたよ?」
「……フン良いだろう……我を復活させた礼として何か願いはあるか?」
「じゃあ僕とエレンとプランとイネの命の保障、そして君の戦いの観戦をさせて」
「まあいいだろう……それぐらいなら」
するとマイッゼルは、焦りながら魔王に聞く。
「俺は! 俺はどうなる!」
「貴様は我を復活させる気すらなかったではないか……聞く必要があるのか?」
「まあマイッゼルさんの魔道改造のお陰で君は生きてるけどね」
「ッチ……言ってみろ」
「俺の命の保証をしてくれ!!! そうすれば俺は君を研究して完全に力を取り戻させてやる!」
「良かろう」
「させない!!」
恐怖で動きが止まっていた有志も、危険性の為か動いた。
「ホーリーインパクトオオオオオ!!」
有志は、最大の力でホーリーインパクトを放った。
「うん?」
その攻撃は、バファハイドに直撃した。
「やった……」
「不快だ……その言葉……」
すると、無傷のバファハイドがそこにいた。
「全く……貴様は本当に勇者か? 以前の勇者は惜しかったが強かったぞ? 多少はだが」
呆れる様に頬を掻く。
「なん……だと」
有志は、唖然としながら震える。
「怖いか? はあ……呆れる呆れる……たかだか500億分の1程度でこのざまとは……まさかだが今の魔王もそうか?」
惑は、その言葉を聞いて首を傾げる。
「戦いを見た事がないから分からないけど……多分神が選んだのがそいつだって言うなら多分そうだろうね?」
「ッチ……我が知らん間にここまで弱体化するとは……本気でこの世界を取るつもりがあるのか?」
「和平を考えているみたいだよ?」
「はあ?」
バファハイドは、呆れ返った。
「まさか……まさかそんな程度の低い事を考えるのか?」
「まあこういうことも世界の事象の一つだよ?」
バファハイドは、頭を抱えるがどこか納得している様子であった。
「まあよい、我が叩き直せばいい……だが今は……」
そして、勇者である天山有志を見据える。
「殺すか? こいつは弱すぎて話にならんが……」
しかし、少し魔力を練った瞬間。
「ぐ!!」
体から血が溢れ出る。
「どうやら……それなりにダメージが効いていたようだな……」
有志は、ニタリと嗤う。
バファハイドは、血管をピクつかせて歯を食い縛る。
「きざま……ぐうがああっぐうう!!」
「今は止めて置いた方が良いのかもなあ……ちょっと弱すぎるのかな?」
惑は、少し考えながら記録を取る。




