記録164『カイデンの科学者』
「どうしてだ!! 私の研究の素晴らしさを何故誰も理解しない!」
カイデン国の魔工学都市、ティーカー都市にて一人の壮年男性が怒鳴っていた。
彼の名前は、マイッゼル・ティーカー。
この都市を作り上げた開拓者の子孫である。
しかし、それもおしまいある。
「フン、こんなものが素晴らしい開発だと? こんなの勇者様の一撃に比べれば下らない……それに……こんな危険な物があればこの国に必ず災いをもたらす……勇者は自身で制御するからこそ良いが、こういう後世に残る物があるという事は必ず力に支配される者が現れる……君のようにね……マイッゼル!」
現ティーカー都市を取り仕切る貴族、ファランクスバン・フォン・ペルバラは見下すように言った。
「ふざけるな! 勇者に頼らずとも科学の力で魔王を倒せる可能性がある! 神からの脱却だって出来るんだぞ!」
「そこに問題がある! 神への裏切りが許されると思うのか? そう! それこそが君の罪だ!」
「しかし! 私の祖先は神を超える事を!」
「フン、いつまでそんな下らない事を考える……いや罪深い事を考える……」
蔑視しながら貴族達は、マイッゼルを睨む。
「今日で貴様の任を解く……いやそもそも貴様の地位を剥奪する!」
「な! ふざけるな!」
「今すぐ荷物を纒て出ていけ!!」
「ふざけるなって言ってるだろうが! お前等後悔するなよ! 俺の研究がどれだけ素晴らしいかを実感する日が来る!! お前等はその時俺に頭を下げても助けて貰える事はない!! 分かっているなア! ああ!!」
「やれやれ、どれ程醜い存在なんだ」
「ああ、アイツほど醜いモノはいないだろう」
「それよりも、勇者天山有志を呼ばなければ、我々はアルノトア様と違って勇者の力を信じている」
貴族達は、有志達を探すため使者を送った。
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「糞! 俺の研究は完璧なんだ! 俺こそが天才錬金術師! マイッゼル・ティーカー様だぞ!!」
ストレスに任せて勢いよく酒を飲み干す。
そんな時であった。
「溜まってるね~ストレス」
二人の冒険者が隣に座った。
「何だ貴様等」
マイッゼルは、怪訝そうな表情で二人を睨む。
「まあまあ、俺はバワカ、コイツがアワホだ」
バワカとアワホは、酒を揺らしながら話をする。
「アンタ、ティーカー都市の魔工学者何だって? そんなアンタの力が発揮できる場所があるって言ったらどうだ?」
「は? 俺の力が発揮できるだって? テメエ等冒険者風情に何が分かるってんだ?」
「まあそう言うなよ、シャグル国が滅びた事は知っているか?」
「ああ、そうだったな……それで? それがどうした?」
「ここだけの話……その生き残りが作り上げた集落がある……そこには、ドワーフやあんたと同じ錬金術師もいるんだ」
「へえ……魔工学専門家?」
「いや、残念ながら生物担当らしい」
「で? 俺に魔工学を専門に働けって?」
バワカの誘いに、マイッゼルは呆れながら聞く。
「まあまあ、一度はおいでよ」
「そうだぜ? どうせ追い出されて行くとこないんだろ?」
「もういいよ……どうせ俺の研究は否定された……アレの凄さや俺を認めない奴等に一体何が分かるんだ……」
マイッゼルは、何処かやけになっていた。
「まあ気持ちは分かるが……どうせ行くところないんだから雇ってくれると所に行かないか? これからどうするんだよ」
「……まあ……どうせこの国にもいられない……死ぬまで暇だし……」
仕方なさそうにしながら、マイッゼルは集落へと向かった。
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集落には、様々な人とドワーフがいた。
「おお、アンタが魔工学の天才か……マイッゼルだっけっか?」
「よろしくなア!!」
ドワーフ達は、畏怖を込めてお辞儀をする。
「ああ? んあだ? コイツ等」
「アンタは有名だからな……恐怖的にもな」
マイッゼルは、何処か面倒そうにしながらやさぐれながら惑の元へと向かった。
「ようこそ! マイッゼル・ティーカーさん! 君はこれからここで働くかは決めてくださいね!」
「ふーん、俺を必要としていないのか?」
「? 必要ではあるけど無理はダメだ……無理にさせても良い結果は基本生まれない……人間とは好奇心を持続する為のモチベーションが必要だ、今の君はそれが欠けているようだし、それを理解するところから始まる」
惑に対して、冷たい目線を向ける。
「そういえばどうしてティーカー都市から追い出されたの?」
「俺の研究を認めなかった……そして俺の素晴らしさを認めなかった……それが理由だ」
「ふむ、確かにそれは酷いな……だがもっと酷いのは君はその地位と誰かに認めて貰う事に執着している所かな?」
その言葉に対して、マイッゼルは怒りを示す。
「貴様に何が分かる! 俺の偉大さを理解出来ない奴が悪いんだ!」
「やはりか……科学者に良く起きる現象の一つ……科学を使ってのし上がるという愚行」
「愚行……だと?」
「ああ、愚行だとも……そもそも科学者は弱い事を前提に科学を生み出すんだ……科学者は弱いからこそ技や進化や道具を編み出して強者に渡り合う……自身が凄くないという認識こそが科学には必須条件だ」




