記録158『冒険の書の続き』
「何だ何だ!! 一体何が起こった!!」
「テュリアメルが奇声を上げて走ってどっか行ったぞ?」
「何だったんだ?」
皆が唖然としながら、水晶を見ていた。
「何があったの? あれ?」
「バグったんだよ……」
「バグった?」
惑の言葉に、皆が注目する。
「だってさ、脳みそだよ? 僕の世界でも人の脳については完全には把握できてないし解明も出来てない……多少の事は分かっているけどそれでも謎が多い、そんな偉い人達がちゃんと分っていないのに僕のようなガキが分かると思う?」
「!!」
「なるほど……ワシ等もアーティファクトの扱いには苦労する、そんな曖昧な扱いをすれば暴走……もしくは暴発するッという事か……」
惑の言葉を聞いて、何となく理解するドワーフ達と違い、イネは全く理解出来ておらず、頭から煙が出ていた。
「ではあの機械は? あれで洗脳してたんじゃ?」
「いや……消した記憶を覆い隠す為に勇者を恨む記憶を入れたんだけど……なかなか定着する事が無くてさあ……だから暗示用として付けたのがあの機械なんだ……云わばあれは安全装置だよ……定着後はあの装置を外す予定だったんだけど……壊されたせいで暗示が消えて矛盾と記憶障害の同時の衝撃で脳が壊れてバグったんだ……」
「あらら」
エレンは、少しクスクス笑いながら話を聞いていた。
「ウヒャハハハハハハ!! ブザマア~」
プランは、大爆笑しながら罵倒する。
そんな時であった。
「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「!! 産まれた……私の子供オオオ」
イネは、走りながら泣き声のする方へと走った。
そして、ペガサスが愛おしそうに獣人の馬を抱き締めていた。
「貴方……生まれたは……貴方の子よ」
「!! え! 喋った!!」
エレンは、当然のように喋るペガサスを見て唖然とする。
惑は、嗤いながら答える。
「別に不思議な事ではない、僕のいた世界でも語学を覚えるなら恋人を作るのが良いと言われている……それは相手の事を知ろうと想う力が働いて憶える事が効率的になるそうだよ」
「え……へえ」
惑の説明に、少し理解出来たようではあった。
「さてと、その子供はまあ……イネが育てるのは難しいからペガサスが育てるという事で」
「ええ、分かっているわ」
「本当に普通にしゃべるねエ!」
プランは、嗤いながらペガサスを見つめていた。
「ええ……イネが生まれるまでに子供の教育にと色々と教えてくれたわ」
「え……へえ」
イネをじろっと見て、イネは目線を逸らす。
「で! 惑! 次はどうするの1」
「あ、逸らした……」
惑は、少し考える。
「そうだな……エルフの里に向かおう」
『何で!』
テュリアメルがぶっ壊れた今、わざわざエルフの里に向かえばただでは済まない可能性がある。
「冒険の書はテュリアメルの記憶の中だけの話だ……つまり勇者一行がアレを手に入れれば記憶にない記録を辿る可能性がある……ならこちらで回収して奴等が冒険の書を使っている情報に乗じて作戦を立てようじゃないか! 目的の中に入れ込めばこちらで取り込みやすい」
エレンは、嬉しそうにする。
プランは、ケタケタと嗤いながらエレンの肩に乗った。
「さあ! 行こう!! きっとエルフ達を苗床にすれば美味しいよ!!」
「うん! そうだね!!」
「やってみたい事もあるし……」
「? ほほう、なんという面白さ……君は素晴らしいね」
プランの発想力に、惑は感動を覚えた。
---------------------------------------------------------------
「テュリアメル……」
一人の男エルフが、涙を流していた。
「貴方……もうお休みになって……」
「テュルメアス……」
すると、一人の金色の髪の女性が現れた。
テュルメアスと呼ばれた女性は、涙を流して震えている。
「娘が……娘のテュリアメルが囚われて一年だ……未だに見つからないだ何て……」
「お父様……テュリアメルは私が必ず見つけて見ます……その為に人間の領地に入って行く事が決まったのですから!」
「ミュリュアメル……」
ミュリュアメルと呼ばれたエルフの女性は、テュリアメルの姉であった。
テュリアメルに似た、金髪の髪と顔つきではあるが、少し大人びていた。
「私なら大丈夫です……絶対に……」
「!! だが……私は……お前まで失えば……それに……このエルフの里だって……次期女王が居なくなってしまえば……」
「大丈夫です……絶対にそんな事はさせません!! 恐らく無法都市にいる可能性があります! 絶対にテュリアメルを無事に返して見せる!!」
ミュリュアメルは決意した表情になっている。
---------------------------------------------------------------
「糞……テュリアメルをよくも……絶対にテュリアメルの意思は受け継いで見せる!!」
有志は、涙を流しながら皆の手を取る。
「有志、その為にはテュリアメルの記憶にあった冒険の書が必要だと思います……」
「ああ、その為に……エルフの里に向かおう……」
「そうだな……その方が良いだろう」
「私も……えっぐえっぐ……」
皆、涙を流しながらも頷く。
「エルフの里は私が知っております……案内します」
「シャイニャス……本当にありがとう……君が居てくれて本当に助かったよ」
3人は、愛し合った後、エルフの里に向かった。




