記録155『語るに落ちる』
「? じゃあ誰が話した?」
「うーん……誰ですかねえ……」
二人は首を傾げていると、脳に直接言葉が聞こえた。
『勇者はこの世界に召喚されし光だ、聖魔力を力に持つ者だ……それは聖女や僧侶等では測れない様なレベルの者である……そんな彼が……聖魔力で破壊される程軟ではない……彼は蘇る……貴様なんかでは倒せやしない』
「……」
「惑!! 上え!!」
すると、光が大量に集まって有志が出来上がる。
「クヒヒヒヒハハハハハハハハ!! 何だこれええ!! スゲええええ!! やっぱり勇者はこうでないと!! でないと面白くない!! だってさあ! そうだろおお! あんな程度で殺されるなんて! だったら勇者がどう魔王を倒す事が出来る!! あんな陳腐な力推し程度で死ぬなら魔王だって出来る!! じゃんけん方式で闇魔力が聖魔力に負ける? そんな簡単な話なら今までの魔物と同じだ!! ならどうやって魔王を倒す? どうして聖剣が必要だ! 聖剣とはなんだ? ああ!! どうなんだ!!」
惑は、テンションを上げながら神と問い質す。
『っは! まさか……聖剣でも作るつもりか? 無駄だ、そんな事は不可能だ!』
神は、鼻で嗤う。
「ぶ!! 語るに落ちたな……今答えをくれた……」
『!! 貴様!! そんな事が許されると思っているのか!! そもそもその娘にどう使わせるつもりだ!! あれは勇者に許された……』
「おいおい、それ以上言ってくれるなんて……ああ! お前……さては駆け引きの素人だな……人から望まれてばかりだから引き出されるって奴に慣れてないんだ! だからそんなにぺらぺらと? 神の底も見えて来たな……つまりは……貴様も勇者同様に……」
『ップツン!』
「あ、逃げた」
惑の言葉を最後まで聞かずに、神の言葉は聞こえなくなった。
「ふざけるなよ……ふざけるなアあ……ゆるざないぞおお!!」
「まあまあ、今のうちに逃げるよ~」
惑は、 プランに指示を出して、抱えられながら逃亡する。
「にげ……るな……卑怯……者め」
有志は、完全に回復して地面に落ちるが、追いかける事が出来なかった。
----------------------------------------------------------------
「有志……任せて……私が奴を狙い撃って見せるから」
テュリアメルは、弓を引きながら、惑の頭を狙う。
「やあ、エルフちゃ~ん~」
「!! ひいい!!」
耳元に、厭らしくも嫌悪の広がる様な声がした。
「わにゃああ~べろ~」
「いやああ……いやあああ」
体が震え出して、矢を落とす。
今のテュリアメルには、惑を狙い撃つだけの集中力が消えた。
怒りすらも壊され始める。
「今さ~惑殺そうとしたでしょ~ダメだよエルフちゃ~ん~」
イネは、テュリアメルの体を無理矢理引っ張る。
「やめ……おねが」
「ダメだよ、君は今から僕にまた壊されるんだ……大丈夫だよ~また惑に直して貰うからさあ~」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
----------------------------------------------------------------
「有志!! 大丈夫ですか!!」
「ああ、有志……」
「生きてる……生きててくれている……本当によかったあああ」
3人は、向こうから歩いて戻って来た有志を見て喜ぶ。
「ああ……なんとか……? あれ? テュリアメルは?」
「あれ!! テュリアメル! テュリアメル!!」
「確か……何か決意めいたような目でどこかに……」
「まさか!! 一人で仇を!!!」
「まずい!! 早く探さないと!!」
有志達は、いなくなったテュリアメルを探し始めた。
----------------------------------------------------------------
「惑! また壊れた!!」
「また? いい加減にしなさい……僕は玩具屋さんじゃないんだよ? 大人の玩具は専門外だよ?」
「おねがい~」
「しょうがないなあ……」
惑は、テュリアメルを再び診察した。
「分析さん、この子戻る?」
『難しいですね……以前脳を弄ったせいで再び弄れば何かの不具合が発生する可能性があります……恐らく正気を保てない場合もある増すが……』
「うーん……どうするべきか」
『一応は代わりの記憶を入れて対応すれば一時凌ぎ程度には治療可能だと思われます……しかし、少しでも疑念や疑問が生まれればほぼ確実に正気を保てないでしょう』
「そうか……代わりになる記憶……かわり……記憶の複製って出来る? 複製された方の問題は?」
『可能です、複製された者に関しては記憶を読み取りそれをコピーするだけですので特に異常な事にはならないと思われます』
「良し、それでいこう」
「どうするつもり?」
イネは、不思議そうにしながら惑に聞く。
「エレンちゃん、プランちゃん来て」
「はい?」
「どうしたの?」
「今からこいつの記憶の中に君達の勇者に対する怒りの記憶を埋め込みます」
「マジですか?」
「怒りの記憶? 村を滅ぼされたとか仲間を殺されたとか?」
「いや、感情的な部分だけで良いと思う……どうして怒っているのかは別に知らなくていい……ただ何となく勇者に対して怒りを覚えればそれで……そして勇者とのやり取りを記録してみたい」
「それって……復讐と関係あります?」
「? さあ? ただ僕が実際どうなるか試したいだけだけど? もしかしたら勝つかもしれないよ?」
惑の言葉に、エレンは渋るが、すぐに頷いて了承した。




