記録135『卑怯者め!!』
パパルは、オプセテと対峙した。
「で? 腕っぷしで勝負って事で良いのか?」
「ああ! 目にもの見せてやる!!」
オプセテは、パパルを見返せると思い、やる気で満ち溢れていた。
パパルは、終始仕方なく付き合って上げている状態になっていた。
(早く終わらせてさっさと酒飲も)
周りのギルドの冒険者は賭けををしていた。
「……おい……これじゃあ賭けになんねえよ……」
「全員パパルに賭けてんじゃねえか……」
「おいおい、誰かオプセテに賭けてやれよ」
「嫌だよ……負けたくないもん」
賭けは明らかに成立せず、冒険者名物の賭け事は始まる前から終わりそうになった時だった。
「俺が! 俺が100万金貨賭ける!」
有志が、即金で100万金貨を机に置いた。
「じゃあ私は90万金貨!」
シャイニャスも続いて、机に袋を置く。
「じゃあ私は50万だ!」
「私は80万!」
「じゃあ私は95万!!」
ある意味では凄い金額である。
冒険者達は、唖然としたが、すぐに喜んだ。
「シャアア!! やれエ! パパル!」
「負けんじゃねえぞ!」
「行けええ!!」
皆が皆、パパルを応援する。
オプセテは、体を解す様に動かすが、パパルは何もせずに机に腰を置いている。
「どうした? もう負けを認めるのか?」
「は? 何も言ってないじゃねえか……さっさと来い」
「フン、準備体操もなしに……いいだろう」
もうすでに勝つことを想定して、オプセテは構える。
「行きますよ! はじめ!」
受付嬢が、始まりの合図の掛け声をした瞬間、オプセテは飛び掛かる。
「はあ……」
仕方なさそうにしながら、飛び込んできたオプセテを受け入れて、拳を上手く掴む。
「な!」
「な! じゃねえよ……お前さっきからスキルで身体能力を上げてたみたいだが……だからってなんだよ?」
そして、オプセテはパパルに腕を掴まれながらそのまま壁に叩き付けられる。
「ぐが!」
「オプセテ!!」
「いいぞ!! パパルううう!!」
「やれええ!!」
「勝て―!」
受付嬢すら、パパルに金を賭けていた。
「糞! 卑怯だぞ!!」
「え? 何が!!」
パパルは、有志の罵倒を聞いて驚愕する。
「そうやって真っ向から受けず姑息な手を使って勝利を捥ぎ取ろうとする! そんな卑怯な勝ち方でお前はそれで良いのか!!」
「えええ……何言ってんのアイツ?」
「怖……」
「勇者って変わってんだな」
他の冒険者達も、勇者の言葉に対して引いている。
冒険者の大抵は、卑怯な事をしてでも生き残り、勝つことを目的とし、依頼の達成の為であれば卑怯な事をもする。
しかし、有志の中では真っ向勝負正々堂々コソが美しいと考えていた。
パパルのやり方は、非常に冒険者らしかったが、有志からすれば、卑怯極まりなかった。
「真っ向勝負をしろ!! 正々堂々と戦え!!」
「えー」
パパルは面倒くさそうにするが、仕方なさそうに構える。
「お前はいつもそうだった……魔物の子供を追い詰めて殺していたりもしたな……」
「ああ、そうだな」
「そりゃそうだろ……」
「生き残った魔物の子供程怖い物はないからな」
オプセテの言葉に、ほとんどの冒険者が批判した。
「子供を追い詰めて自分が強者だと思うのはさぞ気持ち良かっただろう」
『……』
冒険者達は、真っ青になりながらオプセテを見た。
「フン、卑怯が骨身に染みついているようだな……そのまま負けて自身の過ちに気付くんだな」
「はあ……」
そして、第二回戦が始まった。
オプセテは、再び馬鹿正直に真っ直ぐ飛び込む。
パパルは、有志の言われた通り真っ向勝負で拳を真っ直ぐと伸ばしてオプセテの拳に当てた。
すると、オプセテの拳が砕ける。
「ぐがああああ!!」
「え? ああ、魔力切れか……」
スキルには魔力を使用する。
冒険後とはいえ、パパルは普段から体を鍛えている。
そして、オプセテも体は鍛えてはいるが、その量はパパルの半分にも満たない。
当然、拳をぶつけた際の威力は、パパルが上である。
「勝ちだな」
「いえーい!」
冒険者達は嬉しそうにしながら、拳を合わせる。
「糞! オプセテ! 大丈夫か!!」
「糞……糞……強くなったと思ったのに……どうして……」
オプセテは、悔しそうにしながら涙を流す。
「弱いからだろ?」
「糞! どうせまた卑怯な事をしたんだろ!」
「ええ……何をどうしても卑怯って言うの狡くない?」
「だから賭けは不成立だ!!」
そう言って勇者パーティーが賭けた金全ては、勇者パーティーが持って行った。
「はあ!! 狡!!」
「卑怯だぞ!!」
「寄越せえええ! 金ええええ!!」
当然、受付嬢含め冒険者一同はブーイングする。
「黙れ! 卑怯者共め!」
そう言って、勇者一行はギルドを出て行った。
「えええ」
「何かヤバい奴等だったな……」
「パパル、どんまい」
「ああ……」
パパルは、自身のパーティーに戻る。
「終わった?」
「うん」
「そうですか……取り敢えず帰りましょう」
パパルパーティーは、溜息を吐きながら家に帰った。




