記録134『もう遅いからな!』
「よう! パパル!」
意気揚々とオプセテは、パパル達の前に立った。
「ああ、オプセテか……何の用だ?」
パパルは、オプセテを見るなり適当に返事をする。
「お前! ジュエルタイラントを倒したそうじゃないか! そんなボロボロになってまで!」
「ああ、そうだな」
オプセテは、嘲笑いながらパパルに言い放つ。
「あーあ!! いくらS級魔物とはいえ俺がいればそんなにはならなかったんじゃないのか?」
「はあ……そうかもな……」
適当にあしらうパパルに、オプセテは怒りが湧く。
「なんだ? 強がりか?」
「別にしてないだろ……面倒くさい」
ロチャルマナは、鬱陶しそうに追い払うように手を振る。
「ロチャルマナ……何だよその態度……」
「どうせこっちが戻ってと言っても戻るつもりもないんでしょ……そんな見え透いたような事をして楽しいのかしら?」
「何だと?」
ポウルも、呆れたように溜息を吐く。
「別に戻ってきて欲しいと思っていないので何もしなくて良いですよ……この先も貴方とはもう無関係で……」
酒を飲みながら、目を逸らす。
オプセテは、悔しそうに拳を握る。
「強がったって意味ないぞ」
「は? 誰?」
有志は、ニタニタと笑いながらパパルの前に立つ。
「俺の名前は勇者天山有志! この世界を守る者だ!」
「そうか、頑張れよ」
有志に対して驚く事もなく、どうでも良さそうに酒を飲む。
「そうやって無関心な振りをしたって無駄だぞ?」
「無関心って……本当に興味がないだけだ……俺達は冒険者で冒険する事を主に仕事をしている人種だ……その中に魔王を倒すなんて仕事は入って来ない……あっても魔物を倒す依頼ぐらいだ……依頼でないと受けない……それは冒険者の規律を守る為に存在して……」
「もういい」
「そうですか……ではさようなら」
それで終わると、パパルパーティーはそう考えていた。
しかし、有志はパパルの酒を手で弾き飛ばす。
「何をする……勿体ないだろう」
「何が規律だ! 何が仕事に入っていないだ! そんな無関心がこの世界を絶望へと導くんだ!」
「魔王を倒す為にお前は召喚されたんだろ? ならそれはお前の仕事でお前がすればいい……それとも自分で倒すのが怖いから手伝ってくださいってか? ならそう依頼に書いて募集すればいいじゃないか」
「ぷ!!」
ロチャルマナは、パパルの言葉に吹き出す。
「フン、まあいい、お前はコイツに負けるのが怖いんだろ?」
「は? 何の話だ?」
有志は、ドヤ顔でオプセテの肩を組む。
「こいつのスキルはお前等が思っている以上に凄いんだ……お前はそうやってこいつの実力を認めたくないんだろ?」
「?? はあ……別にどうでもいいけど……何? 認めて欲しいの? 良かったね、凄い凄い」
パパルパーティーは、面倒くさそうにしながらも、拍手してあげる。
「なんて人達ですか! 人を素直に祝福できないんですか!」
「ええ……したじゃん」
だんだん面倒臭そうにしながらシャイニャスに視線を移す。
「だったらどうすれば祝福したことになるんだよ……提示しろよ」
「土下座しろ」
「何でだよ……」
パパルは、嫌悪しながら席を立とうとした。
しかし、その道をオプセテが阻む。
「退けよ……」
「嫌だね……」
「何がしたいの……貴方」
「突っ掛かるの止めてくれませんか?」
関わりたくないのか、対応が雑になるパパルパーティーを見て、有志がある提案をする。
「ならお前等がオプセテと戦って負ければ土下座……勝ったなら……その時は好きにしろ」
「何だよそれ……」
「怖いのか」
「いや……怖くはないけど」
そう言いながら、当然のようにパパルは、オプセテの股間を蹴り上げた。
「あぐ!!」
「!! 卑怯者め! 貴様何をしている!」
「なにって……金的を攻撃した……」
パパルは、胸ぐらを掴んでくるレイシャを鬱陶しそうに放させる。
「!! 何だ……私は放そうとしてないぞ」
パパル自身も驚いていた。
西院円惑が言っていた。
一度ピンチを乗り越えると対応力が飛躍的に上がる。
対応力が上がると突然の事に対して、どう対応すればいいかが自然に対応できる。
そして、その為の動きが体が自動的に動き、心が自動的に適応する。
そして、目線すらもその為に自動的に動いていく。
無意識下での、技の発動が可能になる。
自然な動きや対応に対して、魔物も人間も動物も対応するのは難しい。
だからこその、ピンチを作っての訓練は、パパルパーティーを他の冒険者に圧を掛ける程の圧倒的な力を見せた。
しかし、中途半端な冒険者や、新人冒険者はあまり気付く事が出来ない。
実戦経験や追い詰められた事のある冒険者、更にはS級冒険者等、が気付きやすくなる。
「さてと? じゃあ俺達これから依頼だから」
「待て! 俺の権限でお前等に冒険者としての権利を剥奪させるぞ! 俺が一言いえば簡単だぞ!」
「は?」
完全に、言っている事に対してドン引きするが、相手が勇者の為否定できるとは思わなかった。
「分かった……いいだろう」
「ああ、……糞が……」
仕方なさそうにしながら、パパルは戦いを承諾した。




