記録127『情報戦』
有志は、フルスタ国の教会へと来ていた。
教会からはシスターが現れた。
「申し訳ございません、国民達が貴方様に対して攻撃的になるなんて」
「いえ、気にしておりません、きっと皆西院円惑という男のデマのせいで騙されているんだ」
「そうだよ! 西院円惑だけはすぐに倒さないと! でないと魔王との戦いにも影響が出る!」
その言葉を聞いて、レイシャは質問をする。
「どういう事だ? さっき聞いた話だと神は有志にチート能力とステータス、そして魔法は未だに使用出来るのだろう……」
しかし、有志は首を振る。
「いや、確かに俺はこの能力を維持できている……だが神の信仰が失われた事によって力を失ったのなら……信仰の対象は魔王へと傾く……そうなると確実に魔王の強さは今までより強くなっている可能性が高い……信仰によって力を増すと言う事となる」
「!! まさかそんな!」
「さすが有志……全くその通りだよ」
「なら! まず西院円惑を倒さないと魔王を倒すのが困難になるという事ですか!」
シャイニャスは、冷汗を掻きながら唖然とする。
テュリアメルは、悔しそうに唇を噛み締める。
「大丈夫だ、俺は負けない……俺は絶対に西院円惑を倒す! アイツがどれだけの命を弄んだ! アイツのせいでどれだけの絶望と死が振りまかれた! 魔王もだが誰かが止めないといけないんだ! あの悪魔のような男をな!」
「ええ、その通りです……勇者様……我々に出来る事はありませんか? 出来る事は我々も協力したいです!」
その言葉を聞いて、有志はシスターの手を取る。
「ゆ! 勇者様……」
「ありがとう」
顔を赤らめながら、シスターは戸惑う。
有志は、嬉しそうにしながら顔を近付ける。
「お願いがある! 西院円惑の手配書と悪の所業を詳しく書いてそれを配るんだ! そして、俺の勇敢に戦ってきた伝記を皆に伝えるんだ! そうすればきっと西院円惑の言葉より俺の言葉こそが真実だという事実に気付く!」
「なるほど! 有志! 貴方は天才ですか!」
「そうすればきっと皆間違いに気付いてくれます! 西院円惑がいかに間違っているか!」
「奴の邪悪さを知らしめて! 有志の勇敢さをきっちり見せれば皆さんの心にまた神様が宿ります! それこそがきっと正しい道です!」
皆が賞賛し、有志を讃える姿がイメージ中で出来上がっていく。
有志は、満足そうな表情でシスター達に頼む。
「では皆の者! すぐに行動しなさい!」
『はい!!』
そして、有志のイメージ塗り替え作戦が始まった。
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「へえ、西院円惑は最低の所業、ペプリア国へのテロ行為、無法都市を魔族へ献上、ドライアドを唆しララルア街の破壊と虐殺、オークをアイドルと言われる者へと改造し人々の洗脳、リザードマンをドラゴンへと改造してリザードマンの集落を破壊、更にはドワーフの虐殺を行った極悪人、一方その全てを勇者である有志が防ぎ人間の世界を救った、人々の事を第一に考えており、魔族や魔物、更に魔王を倒す事を目的とし、西院円惑を必ず倒す為に行動を開始す、以前貼られた人殺しの内容は、西院円惑が送った暗殺者を倒しただけとのこと……どうする? 惑? バレてるよ? しかもこの手配書全てに配ってるんだって」
「うわー……やられたー」
「……めちゃめちゃどうでも良さそう」
「うん、そうだね……さてと、エレンちゃんを連れて何度か勇者と実践して素材もゲットして研究を進めようか」
「う……うん」
「どうしたの?」
「他の人に殺されるのでは?」
「見て見て、あの人」
惑が指をさす方向を見ると、色々な人がその手配書を見ていた。
「おいおい、見てたかこれ?」
「ああ、見たぜ」
そして、ほとんどの人達の感想を言っていた。
「言い訳臭い……」
「あの後だからなあ……しかもちゃっかり人殺しした理由をここで述べているって……もう少し上手くすればいいのに」
「取り敢えず出してとけばいいみたいでなんだかなあ」
意外とあんまり良い反応ではなかった。
「どうしてだろうか……」
「雑だからじゃない……情報戦って大体先に出した方が勝ちだよ……その後どんだけ言い訳しようとアンチの恰好の的だからね」
「なるほど……」
「さ! 行きましょ行きましょ!」
「ねえ! 西院円惑さんだよね!」
エレンの修行の旅に出かけようとしたその時、目の前に親子が現れた。
「おお、坊や! どうした?」
「サインください!」
「いいよ、ほら!」
「わあ! ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「ありがとうございます、息子も喜んでいます」
そして、親子は頭を下げて離れて行った。
「え? どういう事?」
「多分僕の事を革命家か何かだと思ったんじゃない? 勇者はまだこの世界を良く分かっていないからじゃない? 世界っていうのは一国の情報だけでは完全には分からないしね、世界情勢なんてもっと分からないよ、国民がどのような考え方をしているかもね」
「つまりその場凌ぎのような事をしても無駄って事か……」
「多分? 僕生物学担当だから分からない……政治は別に人に聞いて」
「うん……分かった」
「じゃあ行こう!」
旅は始まった。




