記録11『アレンの決意』
アレンは悩んでいた。
このままでは村の壊滅は止められない。
西院円 惑とイネと呼ばれる者が、この村に滞在している間、乗り切る事が出来ても、二人がこの地を去ればそこまでである。
アレンは、前村長であり、死んだ父に託された村を守る使命を果たせない事、村を守る為、侍女として貴族に雇われた妹を想いを無駄にしてしまう。
アレンにとって、それは耐え難いことであった。
しかし、他の村民は、西院円 惑の改造を嫌がり、人間で有り続けたいと願っている。
その想いを踏み躙るような事は、アレンには出来なかった。
そして、その葛藤は、アレンにある決断をさせた。
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惑は、二つの魂を試験管に入れた後、睡眠を取っていた。
MPをダッチ〇イフ作りと魂視認で、かなり消費したからである。
そして、45分ぐらい経過したぐらいで目が覚めた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ」
大きなあくびの後、学生服から服屋で購入した、錬金術師の服に着替える。
「この服手洗い出来る場所あるかな?」
そんな事を考えながら、身体をほぐしていると、寝室からイネが、満足げな表情で出てきた。
「良かった〜」
「そうか、喜んで貰えて何よりだ、違和感覚えたら言ってね」
「うん! それよりあのダッチ〇イフ! あんな凄いのどこで知ったの! 異世界から来たって言ってたよね! 惑の世界ではあんな凄いの人形が流通しているの!」
「うん、まあごく一部でやり取りはされてるんじゃない? 種類も色々あるみたいだし」
イネの興奮度が高まり、はしゃぎ始める。
「凄い凄い凄い! これさえあれば! 一財産築けるよ!!」
「あっ、売って良いんだこの二つ」
「ごめんなさい、止めて下さい」
しかし、惑がダッチ〇イフを売ろうとすると、たちまちテンションが下がり、頭を下げて謝る。
そんな時、ドアの方からノック音がする。
「思ったよりお早い決意で事」
「?」
惑の言葉に、イネは首を傾げる。
そして、惑がドアを開けると、そこには先程の青年が立っていた。
「やあ、こんにちは、丁度話したい事があったんだ」
「私も、貴方に話したい事が……」
「まあ、入ってくつろぎなよ、元々は君らの所有地を借りてるだけだしね」
惑の案内により、近くの椅子に青年を座らせる。
青年は、神妙な面持ちで少し落ち着かない様子だった。
「報告がある、誘拐をしていたと思われる魔族を二体倒した」
「!! 本当ですか!」
惑は、寝室からイネに上げたダッチ〇イフを持って来た。
「この二体が誘拐していた魔族だ、今はイネのダッチ〇イフになっている」
「ダッチ〇イフとは?」
「性玩具だ」
「うわ……」
青年は、ドン引きしながらイネを見る。
「もう協力……」
「イネ、これは君の成長を見る為の過程だ、協力しないという選択はない」
「うう……」
しょんぼりしながらイネは蹲る。
「さてと、報告は終わり! 次は君の話を聞こうか? まずは名前からどうぞ!」
「!! はいそうですね……そういえばまだ名前も……私はここの村長を務めるアレンという者です」
「アレン君か、ヨロシクネ」
惑は、頭を下げながら挨拶をし、アレンも同調するように頭を下げる。
「それで? お願いって?」
「……それは……」
アレンの煮え切らない様子を見て、惑は微笑みながら諭す。
「分かるよ、ただでさえ詐欺紛いな事をする錬金術師なのに、こんな胡散臭い男が錬金術で君等を改造して強くするなんて言われたら信じられないよね、だから名前も言わずお願いだけを伝えた……そうじゃない?」
「!! えっと……それは……」
アレンは、申し訳なさそうに俯く。
「良いんだよ、君は村長だ、リーダーに警戒心がなければこの村はもっと早く壊滅したんじゃない? さっき見たオーガへの避難行動もなかなかに手際が良かった、寧ろ一人だけの犠牲で済んだ事が奇跡そのものだ! そして君の続けていた避難行動により、僕とイネが幸運にも現れて村を一時的とはいえ守られている状態だ、しかも僕もイネの戦闘データ目的で報酬を必要としていない、その分責任もあまりない欠点はあるけどまあ犠牲者を出さないようには心掛ける、でも君だって分かるだろ? チャンスが訪れたって事は、選択を迫られている事も」
「……」
アレンは、言い返す事なく黙って頷く。
「さっきも言った通り、僕等は一週間でここを立ち去る、例えやるべき事を終えても一週間はここで村を守る約束をしたんだからそれは絶対に守る、だが約束を守るという事はここを出る期間も変わる事はない、しかし契約を更新する事は出来る」
「……はい」
「そして更新するにはそれなりの対価が必要だ、僕等がここに残る為のメリットが……」
「はい」
「勇者はどうにかしないの? 勇者ならあの国に村を守るようにお願い出来るのでは?」
その言葉に、アレンは響めく。
「イネ……はあ」
「う! ごめんなさい」
惑に、睨まれてイネは萎縮する。
「まあそうだね、声掛けはしてくれるんじゃない? 勇者が来たら、いつ来てくれるかは知らないけど……」
「勇者様が……召喚されたのですか?」
「僕と一緒にね……アイツがこの村をどうするか知らないけど……」
アレンは、頭を抱える。
「勇者様を待つべきか……それとも……惑さんの改造を受けるか……惑さん……」
「? 何?」
真剣な面持ちで、アレンは惑に問う。
「貴方の意見を聞かせて下さい、勇者が声を掛けてくれれば国は動いてくれるでしょうか?」
「動いてくれるんじゃない? 勇者がその村にいる間は……」
「それはどういう事でしょうか!」
惑の意味ありげな言葉に、アレンは食いつく。
「僕も予想でしか話せないけど勇者が去った後、国は何もせず放置する可能性は0ではないと思うよ?」
「でも! 勇者様との約束を破ってしまったらその国は!」
「勇者は僕と同じ子供だよ、いくらでも言いくるめられると思うけど? 君もそんな経験はない?」
「う!」
更に惑は続ける。
「例えば、任せていた村の管理者が資金を着服して守る事が出来なかった事にしてトカゲの尻尾切りに使うとか、懸命に戦ったが守り切る事が出来なかったとか、村人が更に欲を掻き、国に無茶な注文をして反乱を起こした事にするとか、今考えただけでかなり理由付けを用意出来るよ? あくまで僕の予想だけど」
明らかに惑が自身が人を使って実験したいだけにしか見えないような、取って付けた理由ではあったが、アレンには致命的に効いた。
「確かに、希少な鉱石があると言って俺達を見捨てた連中だ、勇者様がいくら説得しても、国が守り続けてくれるとは限らない」
アレンや村人にとっても、村を見捨てた国程、信用出来ないものはなかった。
「まあ別にどっちでも良いよ……僕は……今まで通り勇者様を待って国に守って貰うか、諦めて人間のまま村と共に死に逝くか、僕の改造を受けるか……どれを選んでも君は何かを失う……だけど失うのはいつだって同じだ……選択を迫られるときはいつだって何かを捨てる必要がある……最善の選択を……」
差し出された惑の手には、3つの選択肢が提示された、最有力候補は、勇者を待つ事である。
しかし、現在では勇者はこの村に訪れておらず、国に勇者に会わせて欲しいと交渉しても受け入れて貰える訳がない、
そして、アレンは決断した。
「俺を……改造してください……例え俺が人間でなくなったとしても……村の人から疎まれたとしても……誇りを無くしても……俺はこの村を守りたい……親父から託された村を……協力してくれている妹の為にも……絶対に!」
「アハハ! 素晴らしい! 君の決断はとても尊いものだ! 誰が何と言おうと僕が声を大にして言おう! 君は素晴らしい人間だという事を! 自身で選択し成長出来る人間だ! きっと改造手術だって上手くいく! そして僕は君を死なせたりしない! そんな事をさせてたまるものか! 任せてくれ! 今日はもう遅いし僕も色々と準備がある! だから明日君には再びここに来てもらってもいいかい!」
「ああ! ああやってやるよ! 絶対にこの村を守る!」
二人は約束をして別れた。
イネは、その様子を見て聞いた。
「勇者がこの村を守る事は?」
「お前は本当に感覚だけで喋るね、いいかい? 勇者は魔王を倒す為に召喚された、村じゃない、だからこの村を守る義理はない……それは勇者としての価値に反している、分かる?」
「ああ……はい」
イネは、しょんぼりしながら納得した。




