記録122『数年後』
ドワーフ達は、突撃しながら必死に足止めを行う。
しかし、当然のように前進する一歩でドワーフ数人が踏み潰される。
「糞! 効きやしねえ!」
「糞! 負けて堪るかよ!」
「有志さんが準備が出来るまで持ち堪えろ!」
しかし、まるでそれを察知したかのようにリザルは核らしき部分が白く光り、徐々に喉へと上がっていく。
「不味い! ブレスだ!」
「大丈夫だ! 今のうちに攻撃を!!」
しかし、いくら鍛え上げた肉体も、いくら叩き上げた剣も、いくら磨いた剣戟、拳も一切が効いていない。
それどころか傷すらつける事が出来ない。
「おいおいおい、まさか本気でアイツ等有志の最大攻撃まで立ち向かう気か?」
「惑はどうすれば一番合理的だと思う?」
「普通に有志一人で相手すれば良いと思う」
「その心は?」
「だってアイツチートステータスじゃん、確かに聖魔力を宿っているとは言ってもアイツの敵じゃないよ? あれはただの試作品だし……破壊力は凄いからかなりのダメージはあるけど」
「チートスキルですぐに回復すると?」
「そう、それにアイツは一度聖魔力光線を吐くと体のチャージにクールタイムが必要になるんだ」
イネは、怪訝そうにしながらリザルを見る。
「回復はしているみたいだけど?」
「いや、聖魔力をあんなに溜めて体に異常をきたさない訳ないだろ? そもそも聖魔力を過剰に入れて暴走状態にはしたけど臨界点超えればさすがに壊れるよ? 多分体もそれを分かって無茶をさせてないと思うし……一発吐いたら次は吐けるのが数分後だよ?」
「いや、普通に隙多いな!」
「まあ動けるからそこの問題はあまりないんだけどね……でも有志相手なら全くの無駄だけど」
「……マジで有志一人で良いんだな」
「うん」
素直な答えにイネは唖然とするが、二人は笑って観戦した。
『ま! 面白いから別に言わないけど!』
そんな事情を知らず、ドワーフ達は沢山無駄死をしに、立ち向かった。
「怯むな! 貴様等の勇敢さをあのドラゴンに見せてやれええええ!!」
「見せてどうすんだよ」
惑は、ツッコミを入れながら楽しそうに知る。
「惑って演劇とかツッコミながら鑑賞するタイプ?」
「あ! めっちゃ分かる! 僕も気付いたらなんか喋ってたりする! お父さんからも良く言われた! てかお母さんもそうだったよ!」
イネも面白そうなので真似した。
「くらえええ! 斬げ……」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ドワーフの一人が口に向かって斬撃を喰らわそうとするが、呆気なく消滅した。
「衝撃に備えるんだ!! 屈強!! 我慢! 忍耐力上昇!!」
「プロテクション!!」
ロンティガや他のドワーフ数人、そしてレイシャやテュリアメル、自身であるシャイニャスを含めてプロテクションで包む。
しかし、さすがに全員は入らず、数人のドワーフ達は自身の死を悟りながら立ち向かう。
と同時に有志に、聖魔力光線が直撃する。
すると、有志はアーティファクトを装着した聖剣を上に掲げて、その聖魔力すらも吸収した。
「本当に有志一人で十分だったああああああ!!」
イネは、有志の驚愕の防ぎ方に思わず大声を出した。
しかし、光線の衝撃と轟音で、他の者に全く聞こえてなかった。
「凄いよ有志! まさかこんなことが出来るなんて!」
「全くだよ! さっきまでのドワーフ達の犠牲は何だったのか!」
「凄いです有志! さすが私の愛する人! 聖魔力を扱わせれば誰にも負けない!」
「お前はお前でドワーフ固めて守っておけばいいだろうが!」
「私も足止めした甲斐があった、他のドワーフ達も浮かばれる」
「浮かばれるか! 無駄死ににも程があるよ!」
「有志がいれば世界は安泰です」
「もうお前等いらないだろ! どっか安全な所で避難でもしてろよ!」
イネは、有志の仲間の賞賛一つ一つにツッコミを入れた。
「イネも僕と同じなんだね」
「ごめん、ツッコまざる負えなかった」
「分かるわー」
惑は、イネの言葉に共感した。
そして、有志は一気に聖魔力を溜めて、自身の聖魔力、アーティファクトによって増幅させた魔力を合わせて一気に聖魔力光線以上の力を聖剣に集中させた。
「ビッグバンホーリーインパクトオオオオオオオおおおおおおお!」
「もうホーリービッグバンで良くね?」
「分かる」
そんなツッコミは露知らず、その高聖魔力のビッグバンホーリーインパクトはそのままリザルの顔面に当たった。
そして、リザルの顔面は消滅した。
「おいおいおい」
「壊れたわ……あれ」
そして、リザルの体は崩壊を始めた。
核となっているメテオはそのままどこかへ転がって行った。
「あ、馬鹿だあアイツ」
「どういう事?」
惑の突然の言葉に、イネは質問する。
「だってあれがリザルを復活させていた正体だぜ? つまりリザルという存在を記憶したあのメテオを壊さない限りあのメテオ自体がリザルを復活させるよ? まああれだけデカい生き物だから完全復活までかなり時間は掛かるけど」
「つまりアレを放置している限りリザル君は死なないと?」
「うん」
惑の言葉を聞いて、リザルの核がそのまま崖から落ちるのを見送った。




