記録113『過剰聖魔力実験』
「……」
「遠慮せずに食べてよ」
リザルは、惑に助けられて先程殺されたリザードマンのもつ煮込みを振舞われた。
いくらいじめられていたとはいえ、自身の同胞を食べようと思える程、リザルの心は破綻してはいなかった。
「あの、すみません……食べれません」
「そう? 勿体ないからイネかエレンちゃんどっちか」
「私食べる!!」
お腹がペコペコのプランが、皿を取り上げると中身を丸呑みにした。
「うん! 美味しい! ゲフウウ!!」
プランは、げっぷを大きくしながら満足そうにしている。
「さてと、話を進めようか?」
惑の言葉に、リザルは真剣な表情になる。
「私を強くするってどういう……」
「簡単だよ、君はある実験に付き合って欲しいんだ」
「実験?」
リザルは首を傾げる。
「僕はエレンちゃんというその子に勇者を殺す為に色々な事をしているんだ、そして何度でも何度でも失敗をしてそれ等全てを糧に出来るのが科学だ、さあ、君は強くなりたいんだっけ? なら今から行う実験はかなり君を強くするよ? 代償はある、失う者もある、だがこれは君の気持ち次第で叶う可能性のある実証実験だ、いいかい? エレンちゃんも見ておきな? 本当に大切だよこの実験は?」
リザルだけでなく、惑はエレンにも話しかける。
「私が強くなる? 代償? 失うモノ? それは一体?」
「おや? 知りたいのかい? 知っても良いけどそれで君の精神力は持つかな? それとも悩むためかな? 悩むならそもそも君の想いと精神力では耐えられないだろう……もう一度聞くよ? それでも君は知りたいかい?」
「!! それは……」
心の中に恐怖が入り込む。
そして、更なる決意が芽生え始めた。
(そうだ、そうだった……私は強くなりたいんだ……そう、私は皆から……戦士の皆から見捨てられるほど弱い体と筋力……強いのは精神力だけ……だが気合だけでは敵はどうにもならない、力だ……力が必要だった……そう自身で理解していたじゃないか……)
リザルにとって、必要なのは強さであるという執着という決意であった。
リザルは、本来自身がどうして強くなりたいかという大切な事を見失ってしまった。
「分かりました! 私! 受けます!」
「その言葉が聞きたかった」
惑は、リザルの肩を叩くと準備があると言って少し席を外した。
そんな惑を、イネは追いかけた。
----------------------------------------------------------------
「らしくないじゃないか、君があんな強引に引き込むなんて……」
「?? 僕は今まで通りの方法で実験に引き込んだだけだけど?」
「そうかな? 気持ちを大切にすると言って今回君はリザル君の強くなりたい本当の理由を見失わせたじゃないか?」
イネの言葉に、惑は少し困ったような表情になる。
「えっとね? 確かに僕は人の気持ちを大切にするって言ってるけど……それは本人がしたいという気持ちに対してであって、別に真の理由については興味の欠片もないんだけど?」
「……あああ……なんとなく言いたい事が分かった」
「イネも賢くなったね」
「いや、私の場合は別に賢くなったじゃなくて、惑の事を感覚的に理解出来たって事……」
「ああ、なるほどね」
そして、惑は試験官を取り出して勇者の放ったメテオの欠片を手にした。
「フヒ」
「うわ」
キモイ笑い方をする惑に、イネは引いた。
「で? その隕石でどうするの?」
「このメテオの欠片を核にしてプランちゃんが吸い取った過剰聖魔力をりザク君に打ち込む」
「えっと、リザル君は無事に済むの?」
「さあ? だからそれを実証する為に実験をするんだよ、せっかく彼は自ら被験者になったんだ」
「そんな適当な? もし無事でもリザル君の精神は?」
「多分壊れるだろうね? でもそれはさほど問題ではない、寧ろそれこそが今回の実験の肝だよ」
イネは、頭を抱えながら呆れる。
「つまり……リザル君がどこまでの聖魔力を入れたら限界を超えるのかを調べたいって事?」
「ほう! 感覚的とはいえさすがだ! そこまで看破されるとは!」
「下種め」
「そんな君も特に少しも止めようとはしてないよね?」
「ああ、僕としてはエレンちゃんの願いが叶って幸せを求める姿を見たいからね……僕にとってはそれが大切だ」
「……僕か……君は性別によって一人称を変えるが……願いが叶っても君に……いや分からないか」
「そう、分からない……僕としても楽しみだ」
二人は、不気味に嗤いながら実験内容を考えた。
----------------------------------------------------------------
そして、プランは惑の言い付けで近くにある植物や沼にいた生き物の生命力を食べて聖魔力へと変換していた。
「ふいいい……お腹いっぱい」
「大丈夫? 無理しないでね」
「うん……」
お腹がパンパンに膨れたプランは、眠そうにしている。
「ありがとうプラン、さあ……頑張れるかな? リザル君」
「ああ! お願いだ!」
「了解、追加」
惑は、何の躊躇いもなくメテオの欠片をリザルに埋め込んだ。
「うぐが!!」
少し苦しそうにするも、リザルは汗を掻いた状態で立っていた。
そして、真剣な表情のままその場で寝そべる。
「さあ! お願いだ! 強くしてくれ!」
「りょーかあい!」
「あはは!!」
プランは、リザルにつるを延ばして体中に刺し込んだ。




