記録112『弱いリザル』
「ふむ、ホーリーインパクトが最終段階じゃないのか……」
「ホーリーメテオですか……これ撃たれたらヤバいと思うんですけど?」
「天災極まりないね……なるほど……少し採取する必要があるようだ……」
惑は、興味深そうにしながらぷー子達がいた国に指を差す。
「了解……仕方ないな」
イネは、猛スピードで国へと向かった。
「これが阿吽の呼吸って奴か……イネとも大体意思の伝達がやりやすくなった」
プランは、涎を垂らしながらホーリーメテオを見ていた。
「美味しそう! なんだかお腹が減って来たああ!」
「ほう、食べれるのか」
惑は、プランの食欲旺盛さに興味を持った。
「だってこれ物体を聖魔力で作り出して上空から落としてるだけだよ? まあ大気圏で燃えているようにみえて聖魔力で包んでスピードと物体を保護してるだけだけどね」
「イネ行かせなければ良かった」
「ここまで見て分かるって……プランちゃん凄いね」
「これは私に植え付けられた記憶の一部だよ? だから元々からあった物だと思う……でも惑が採取しようとしたのは間違いじゃないと思うよ?」
プランの意見に、惑は楽しそうに耳を貸した。
「ほほう、その心は?」
「私の結局記憶でしかないから……実際の物とでは違うと思うよ?」
「うむ、なるほど……それもそうか」
そして、大きな足音がこちらにやって来た。
「持って来た! 途中で勇者に会ってめっちゃ怖かった!」
「そうか、ご苦労……次の街で娼館をはしごしても良いよ」
「わ~い!」
嬉しそうにしながら、イネはメテオの一部を持って来た。
「これで良い?」
「うん」
そして、その一部を試験官に入れて鑑定した。
聖魔力隕石:聖魔力から作成され、聖魔力を纏った宇宙の隕石を模した聖石、魔族が触れれば消滅する。
「へえ、すげええ」
あまりにも淡白な感想にイネは少しショックを受けた。
「次の街は何だっけ?」
「確かリザードマンの沼地があるかと?」
「リザードマンか……それって魔族? それとも」
「亜人って聞いていますよ? え? 何する気ですか?」
「やった」
「えええええ」
明らかに嫌な予感を漂わせながら、惑は急ぎ足で沼地へと向かった。
「ちょっと待ってよ惑! 私の娼館は!!」
イネは不満そうにしながら走った。
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有志は、クレーターの出来た跡地へと向かった。
「有志、今街の者がここの立て直しを行っているようだ」
「ああ、皆すまない」
「良いんですよ! 勇者様が頑張ってくれた証ですがこのままというのもね」
「勇者様の後始末だって私達にとっては誇りなんですよ! だから気にしないでください!」
作業員の男達は嬉しそうにしながら、土木作業を行っていた。
「ありがとう、感謝する」
そんな時だった。
「あった」
「?」
声のする方に目をやると、そこには一匹の獣人がいた。
「お前は!!」
「あ! ヤベ!!」
イネはすぐさま走って逃げた。
「待て! 君は奴から解放……糞……行ってしまった」
「どうします? 有志! 追い掛けます?」
「ああ、だがどうやって」
「私なら後を追える魔法が使えます、トラッキング!」
シャイニャスが、魔法を使うとその場に足跡が浮き上がった。
「これは魔力をあまり使いませんが術者が近くにいないと見えません……だから私が一緒にいないと……その有志が」
「ああ、抱えてもダメかい?」
有志の提案に、シャイニャスは首を振る。
「有志の速さでは私が魔法に集中するのが難しいです……すみません」
「いいよ! ありがとう! なら早速行こう! でないと追い付けない!」
『はい!』
有志達は、さっそくイネの跡を追った。
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「待ってよ惑! どうしてそんなに急ぐの!」
「実験実験楽しみ楽しみ!」
「ダメだこれ」
「聞いてないね」
三人は、呆れながらも惑に付いて行った。
そして、リザードマンの沼地へと着いた。
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リザードマンの沼地では、日々戦士のリザードマン達が己を鍛え訓練に励んでいた。
魔族軍に好きにされないように戦力を上げる為であった。
そんな中、一人の落ちこぼれがいつものようにいじめられていた。
「おい! リザル! てめえはいつになったら使い者になるんだあ! ああ!」
「ゴミゴミゴミ! お前のリザードマンとしての一生はずっとそうだあああ!! あはははは!!」
「恥さらし、落ち目、お前は一生俺達に見下され、劣等感を抱えるのが仕事……楽なもんだよな、命も力も何も賭けなくて良いんだから」
「うう! うううう!!」
リザルは、己の無力さを痛感しながらただただ耐えるしかなかった。
彼は生まれながらにして、体が弱かった。
しかし、父が戦士である以上自身も戦士として仕事を継ぐ必要があった。
当然、リザルも努力を怠らず、真面目に実直に訓練に励んだ。
一度も休まず、一度もサボらず、休みも取らないでただただ己を鍛えた。
しかし、やり過ぎな部分もあったせいか、元の体が弱いせいか、それとも才能がないのか、リザルには強さが身に付かなかった。
鍛えられたのは精神力だけであった。
精神は肉体を凌駕するという言葉を聞いて信じて、自身の精神力の全てを掛けて鍛え続けた。
しかし、精神力がいくら強くなろうとも、全く強さに関係する事がなかった。
「どうじで! どうじでえええ! 耐えれるだけじゃあ意味がないんだああ!! 耐えてもじんでじまえばがんげいないいい!!」
そんないつもの絶望と屈辱を堪えている時の事であった。
「こらこら、君等何をしている? いじめは良くないよ?」
「ああ? 人間! どこから湧いてきた!」
「キメえな! 人間!」
「ここは人間のいるところじゃねえ! 殺す!」
いじめてきたリザードマン達は、今度は助けようとした人間に絡んだ。
「ダメです! 逃げて!」
「もう遅ええよ!!」
「はははは!!」
「死ねえええええ!」
そして、いじめていたリザードマン達は、細切れにされた。
「え?」
「イネサンキュー!」
その言葉と共に、獣人と人間と植物の生えた小さい子供が現れる。
「ええと君等は?」
「僕の名前は西院円惑、よろしくね!」
これが、リザルの人生が変わる始まりであった。
そして、二度と戻れない誤りでもあった。




