記録9『村の現状と将来』
惑とイネは、村人達の用意された食事を共にしていた。
皿には、煮豆と薄い味のするスープである。
「すみませんね、お金も貰った上、更に食事まで」
「いえ! こんな程度では感謝し足りません! お口に合いますか?」
「大丈夫ですよ、美味しいです」
イネは、微笑みながら答える。
「まあ量は少ないから後であのオーガも食べようか」
「え! オーガって食べれるんですか!」
村人達は、唖然とする。
「作ろうか? 臭みが効いて美味しいよ」
「良いんですか! ありがとうございます!」
惑は、オーガの死体を手に取ると、狩猟ナイフで解体し始める。
臓器を鍋に入れ、肉を剥ぎ取り同じく鍋に入れる。
「水ある?」
「そこの井戸に」
「うん」
鍋に水を入れ、ハンガーラックを木で作ると、そこに鍋に掛けるとその下に小枝を立てて、メモ用紙の紙を千切り捻ると、火打石を数回叩き、火花でメモ用紙に火を起こす。
そして、火の付いた立てた小枝の下に置く。
小枝に燃え広がる火を消さないように徐々に大きい木を追加していく。
そのまま、臓器と肉の入ったスープの鍋はグツグツの煮え始め、血生臭い香りが村中に漂う。
「うえ!」
「吐きそう……」
「臭い」
「香ばしい香り」
村人達は、苦悶の表情を浮かべるが、イネは、涎を垂らしながらスープを見る。
「出来たよ」
「え? 調味料は?」
「血だけど?」
「え!!」
驚愕する村人を他所に、惑は、料理を皿に盛る。
「はい」
「えっと……はい」
「はい」
「!?」
そして、ドンドンと料理を渡していき、村人達も断る事も出来ず、受け取っていく。
「うう」
「臭い」
村人達は、ドン引きしながらも取り敢えず口にしていく。
「うう!」
「うええ」
「お母さん、不味い……」
「コラ、せっかく作って下さったのだからちゃんと食べなさい」
「はーい……」
村人達は、吐き気を催しながらも、血生臭い惑の料理を食べ切った。
「ウプ……っ、ありがとう……ございます」
青年は、真っ青になりながらも惑に礼を言う。
「いやいや、それよりさっきの話の続きだね、話してごらんよ、この村が滅びるかもしれない理由」
「はい……実は、我々は国に見捨てられた村なのです」
「見捨てられた? 何か悪い事したの?」
イネは、青年の言葉に眉をひそめる。
「いえ! 国に逆らうような事は何も! ただ、作物を育てているような無駄な村はもう要らないとペプリア国の大臣から突然言われてしまい……何でも洞窟で貴重な鉱物が取れるとかでもう食料生産の必要がないと……」
「なるほど、全部輸入頼りにしたんだ! ふーん、だからか……」
「何が?」
「こっちの話」
イネは、惑の態度を不審に思うが気にしないようにし、話を続けた。
「でもそれなら作物は全部君達の物になるんじゃないの?」
「そうです、しかしそれは魔物や魔族を騎士や冒険者が討伐していたらの話です」
「なるほど、価値のない村に騎士や冒険者を派遣する必要はない……という事?」
「はい……冒険者も前までは作物を国に納付する事で冒険者依頼の際、補助金のお陰で安く依頼出来たんですが……それもなくなり、商人達も外から輸入した食料を仕入れるようになり我々から買い取る事もなくなりました……そのせいでいくら作物を育てても魔物に荒らされてしまったり、魔族に子供が攫われたりと……現在私の妹が貴族の侍女として雇って貰ったみたいですが……その給料も安いみたいで……冒険者を雇う程のお金がなく……」
イネは、その現状に頭を抱える。
「えっと……まさかと思うけど……魔物や魔族の脅威から守ってくれって私達にお願いしようとしています?」
「えっと……出来ればなんですけど……」
「いいよ」
「惑!!」
安請け合いする惑を、イネは引っ張って止めようとするが、惑は話を続いた。
「僕達も研究データの為にここで魔物や魔族を討伐する必要があるからそれまでの間なら、それ以降は知らないけど」
「え!!」
「え? だって僕等だっていつまでもこの村に滞在するつもりはないよ? 用事が済んだら移動するつもりだし……それを承知の上で頼んでるんじゃないの?」
青年は何か言いたげではあったが、惑の言葉を否定する事は出来なかった。
「そっそうですね……確かにそうです……すみません」
青年は、惑に対して謝罪するしかなかった。
すると、惑から一つの提案が出された。
「取り敢えず僕は戦闘向きじゃないから魔物や魔族を倒すのはイネが担当で、僕はそうだなあ……この村が今後も魔物や魔族から身を守れる為、村人達を改造するっていうのはどう? そうすれば僕等がここに残る必要もなく問題が片付くと思うよ?」
その提案に、青年は不安そうな表情を浮かべる。
「それは……私達が強くなるという事ですか? でもそんな事出来るんですか?」
「僕は錬金術師だ、実際そこにいるイネは犬と猫と人間の遺伝子を組み込んだ合成獣人なんだ、そしてイネは既に自分の体を使い熟している、人間では初めてだから失敗の可能性は当然あるけど……でも強くなれる可能性もある、素材だって魔物や魔族を使えばいい、魔物や魔族からも守って貰えるし、君等も強くなれる、一石二鳥だろ?」
「でも失敗の可能性もあるんですよね? 死んだりしないんですか?」
「さあ? まだ試した事がないし、出来るだけ死なないようにはするつもりだけど保障は出来ないよ」
「そんな!」
「俺はまだ死にたくねえ!」
「そんな事!」
青年を含め、村人達は青ざめながら、怯え始める。
「ならいいよ、イネが一時的に魔物や魔族を倒すだけで、ただイネを管理しているのは僕だから用が済んだら出て行く、それで良い?」
「まっ待って下さい! イネさんがこの村に残る事は!」
「イネはどう? 僕はお勧めしないな、君の体だってまだどうなるか分からないし」
惑の言葉に、イネは溜息を吐く。
「私は惑に付いて行くよ、ここに残るつもりも義理もないよ」
「そんな! ……でも……そうですよね……分かりました」
青年は、諦めたように肩を落とす。
「取り敢えず長くて一週間ぐらいは居るから、君達が改造を受け入れるなら一ヶ月くらいは居るかな? 改造後の調整とか色々必要だろうし」
「うっ!」
惑の言葉は、明らかに村人で話し合う為の猶予であり、惑に交渉が出来る期限である。
惑は、村人を改造の実験素体とする事を全く諦めていなかった。
「まあ良く考えて話し合ってよ、こんなチャンスは二度とあるかないかだよ? まあ君達のように自身の命が既に失われそうな状態にも関わらず、死力を尽くしてチャンスを掴もうとしない村人ではきっと有益な実験は見込めないだろうね……これじゃあ国も見捨てる訳だ……ま、頑張ってね」
「ぐ!」
惑は、それだけを言うと近くの小屋へと入った。
「ここ使わせて貰うね、魔物や魔族から守る為の拠点としては都合が良さそうだ、それぐらい良いよね?」
「!! はい……」
村人達も、惑の言葉に怒りを覚えながらも、否定する事が出来ない自身達を恥じるしかなかった。
「イネ……ここに来るまでに戦ったゴブリンとオーガの死体素材、それから君の体について調べるから、魔物や魔族が出た時イネなら気付けるでしょ?」
「はいはい、じゃあ君達も最良の選択をね」
イネも、村人へそう伝えると小屋へと入って行った。
「……クソ!」
「何なんだアイツ! 俺達の事碌に知らない癖に!」
「偉そうな奴だ! アイツも国の連中と同じだ!」
村人達は、惑とイネが居なくなってから陰口を叩いた。
「だが……否定出来なかった……仕事も奪われて、作物を荒らされて……通りかかる貴族連中からも見下されて……このままじゃ死ぬだけなのに……こんな危機的状況なのに……命を……張る事も出来なかった……」
しかし、青年は握り拳を作りながら悔しがる。
「じゃあアイツの実験動物にでもなれっていうのかよ! そんなのごめんだぜ!」
「私も……最後までこの子の母親で……人間でありたい!」
「そうだな……人間のまま死のう……それが俺達の最後の誇りだ……」
「ああ……そうだな……」
村人達が、自身の想いに納得する中、青年だけが苦悶に満ちていた。
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「惑……本当に良いの?」
「何が?」
「村の護衛の件だよ」
小屋の中で、呑気にゴブリンやオーガの素材をアイテム袋に入れている惑に、イネは溜息を吐く。
「ああ、大丈夫だよ、多分誰かしら覚悟を決めて改造を受け入れるから」
「いやそういう事じゃなくて……もしこれで魔物や魔族に私が倒されたら村人に責められるよ?」
「僕等は無報酬で協力してるだけだからあっても無視すれば問題ない、それに目的は素材の調達で守るのはついでだからね」
「まあそうなんだけど……そういえば国で何したの? 姫に不敬を働いたって聞いたけど……他にも何かしたって言ってたね?」
「ああ! まだ言ってなかったね!」
惑は、思い出したかのように話し出す。
「姫に不敬についてはよく分からないんだけど……なんか勇者と一緒に召喚された時に僕は必要ないみたいな雰囲気になっちゃって、それで活動資金だけ貰って城から出ようとたんだけど、なんかお前に払う金はない! て言われて、だから装飾品を売れば良いんじゃないかって提案したんだ、でも外交に必要だから売れないって断られて……」
「それでどうしたの?」
「姫様が古びたネックレス身に付けてたから外交には邪魔だろうから売ればって提案したんだけど、お婆さんから譲って貰ったネックレスだから売ることが出来ないって言われて、だからお婆さんは死んでるから文句言えないから大丈夫だって言ってたんだけど……そこで姫様は泣くわ勇者と王様に激怒されて追い出されたんだよ、酷くない?」
「惑も悪い……」
「ええ……」
イネに即答されて、惑は少し落ち込む。
「で? 姫に不敬を働いた後、国でやらかしたって言ってたね、それで国からすぐ出ないといけないって? その理由は?」
「裏路地に誘い込んだチンピラ3人を合成の試しに使った」
「薄々気付いていたけど……惑って……ヤバい人?」
「君にだけは言われる筋合いはないと思う……」
「ブー……」
むくれるイネの頭を撫でて、惑は微笑む。
「鑑定」
「許可なく調べやがった……」
HP:30000、MP:3000、攻撃力:40000、防御力:4000、スピード:50000、知力:300、魔法:なし、スキル:瞬発、動体視力、聴覚鋭敏、嗅覚鋭敏、獣化、性別転換、2倍発情、人格交換
Name:イネ
HP:30100、MP:30100、攻撃力:50000、防御力:50000、スピード:60000、知力:1000、魔法:なし、スキル:瞬発、動体視力、聴覚鋭敏、嗅覚鋭敏、獣化、性別転換、弱点視認、2倍発情、人格交換、弱点ダメージ向上、変幻自在と記載されていた。
「ほほう、伸びてるねえ……素晴らしい感覚学習だ……君はこのスキルを意識して使っている?」
「え? いやそもそもこんなのが見れる事自体知らなかった……惑が特別なんだと……」
「つまり自分でも気付かないでスキルを使用していたと……」
「まあそうだね」
惑は、イネの体をあちこち見ながら観察する。
「実際に変幻自在のスキルを使って見て? 君自身のやり方で」
「いいけど……わにゃあ!」
すると、足の筋肉が見る見るうちに膨張する。
「ほほう、次は腕!」
「ワニャアアアア!!」
足の筋肉の膨張がなくなり、今度は腕の筋力が膨張する。
「へえ……結構素早く体を変えられるねえ……」
「まあ何となく意識を腕とか足とかに集中させれば出来る感じかな? 例えば体だと……ワアアニャアアアアア!!」
イネの胸筋が大きくなり血管が浮き出る。
「へえ……ふーむ」
惑は、イネの体をベタベタと触りだす。
「あ!」
イネは、顔を赤くしながら淫靡な声を出す。
「そういう意味ではないのだが……」
「ねえ、惑おお~……今夜どう?」
「あ……発情した……」
イネの発情期が再び始まり、惑は困り果てた。
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「そんな嘘……嘘って言ってよ……」
村の近くに一人のオーガの女性が震えていた。
目の前には先程村を襲った男のオーガの生首があった。
それは絶望と恐怖に彩られた表情を浮かべていた。
「レイト……いやあ……イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
女性オーガはその場で泣き崩れた。




