記録96『マイノリティ』
フォラマンは、涙を流しながら語った。
「俺は……いやここではもう私と一人称を変えても宜しいでしょうか……」
「いいよ、ご自由に」
「……」
当然、他の三人にはなじみのない状態。
この世界では、残念ながら男は男、女は女という考え方が基本として備わっており、男が女であるや女が男であるという心の考え方が理解に乏しかった。
「えっと……厭らしい気持ちで女になりたいという事ですか?」
「違う!!」
エレンの不用意な発言に、フォラマンは睨みながら否定する。
「私はそんな不純な理由で女になりたいわけじゃないわ!」
「!! えと……」
「エレンちゃん……よく分ってないから戸惑うのは仕方ないけど今は話を聞こうよ、そうじゃないと君は彼女を不用意に傷つける結果となるよ?」
「!! はい……すみません……」
「まあ君の考えている事は大体分かるけどね……女として男が女になりたいと言えば胸を揉みたいんじゃないかとか女の感触をずっと味わいたいとか、オークの文化体系を見てもそう考えてしまうのは仕方ない……でもそれは話を聞いてからでも遅くないと思うよ……君が思っているより事は深刻かもしれないんだし」
そう惑に諭されて、エレンは俯きながら反省する。
「ごめんね、続けて」
「はい……私は生まれた頃は自分を女の子だと思っていました……でも周りから女の子の玩具を買ってもらおうとすれば男なんだからこれにしなさいとか……女の子として女の仕事をしようとすれば男としての仕事をしなさいとか言われて……当時は男っぽい見た目のせいで揶揄われていると思っていました……お風呂も最初は母とは言っていましたが大きくなるにつれて父と入らされるようになって……」
「そうか、辛かったね」
「はい……でも一番つらかったのは自分が他の女の子とは絶対に違うという自覚が芽生えてしまった事です……いずれ気付いてしまう事とではあると思いますが私にはそれが理解出来ていませんでした……」
「そりゃそうだ……自分では女の子として生きていたんだ……そんな自覚は知識と違いを見れるようになるまで難しいだろ」
「それが自覚出来てからは周りの期待に応えるように自分の心を偽り、苦しくても女の子ではなく男の子としての行動を心掛ける様になりました」
「心掛ける……」
エレンは、その言葉を聞いて少しゾッとした。
「エレンちゃんが聞いても分かるか、そうだね……心掛けるは、そう振舞わなければというただの強制されただけの行動だ……認められないけど諦めるしかなかったという事だ……君なりに分かりやすく言えば、復讐なんて下らないから普通に生きなさいと言われてその通りに心掛けるという感じかな……」
「!! ……」
エレンは、その言葉に怒りの形相を作るが、すぐに心を落ち着かせた。
そして、自分が女であるのに男とお風呂に入らされたり、男のような生活をさせられるという想像をしてしまい、恐怖で身震いが起きる。
「考えたくありませんね」
「……すみません」
謝罪するファラマンに対して、エレンはすぐに否定する。
「いえ! 違います! もし私がそのような状態であった場合に男のような振る舞いが出来るかと言われればさすがに難しいというか怖いというか……」
そして、惑はフォラマンの話の続きを聞く。
「仕事も本当はもっと可愛い事がしたかったのですが……男は戦士にならないといけなくて……だからただただ懸命に男を演じながら、人間軍を無心になりながら倒していきました……」
「ふむ、真面目だね君は……だから今まで秘密に出来たのか……」
「そうですね……村では私はイン〇テンツと噂されていますが……それは本来の秘密とは違うのであまり傷つく事はありませんでした……」
「まあ女性は男と違って性には少し否定的って聞くしね……性同一性障害は同性愛とは違って愛する相手とは関係ないし……あまり好きと思える相手がいなかっただけだからなんだよね」
「……はい」
苦しそうにしながらフォラマンは、涙を流す。
「そうだね……まあ君の事は大体……」
「男が女だと思うとか……マジですか……」
「イネちゃん? 今は黙ってようか? てか君は男と女が重なったようなもんでしょ? 人の事言えないよ」
「え! 私のは違うよ! 私はどっちも自覚」
「こいつの口塞いでプラン」
「あい!!」
惑から注意を受けたにも関わらず、黙ることの出来ないイネをエレンはプランに頼んで、無理矢理つるで口を塞がせた。
「ううう!! うううううう!!」
そして、惑は提案に入った。
「正直完全に女の子にすることは僕の今の科学では難しいかもしれない……出来る限りはするつもりだけど……もしかしたら本人次第の精神力で変えれるかも? まあ取り敢えずは見た目を変えて意識を変えて少しずつ女の子へと変身させようと思う……それでもいいなら改造に入るけど……良い?」
「それでもいい! 私は今の状態を変えたくて来た! 失敗したなら一思いに殺してくれ!」
「うーん……分かった……その時は恨まれる覚悟をして君を殺す……それじゃあ契約をしようか?」
「!! はい!!」
フォラマンは、嬉しそうにしながら契約書にサインをした。




