記録8『村』
惑とイネは、国の外に出てからしばらく歩いていると一つの村を見つけた。
「オーガだああああ!!」
「皆逃げろおおお!」
「嫌だ! いyだああああああああああああああああああああああ!!」
「ウオオオオオオ!!」
村人達は、泣き喚きながらただ逃げる事しか出来ず、追い付かれた村人の一人がオーガにムシャムシャと咀嚼されながら血を流し息絶えている姿であった。
惑は、目を輝かせながらオーガを見つめ、指を差しながらイネに指示を出す。
「いけ! イネ! 突進攻撃だ!」
「わああに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
イネは、四足歩行へ態勢で構え、手足をバネのように曲げていき、筋肉を使いながら一気に手足を伸ばし切ると同時にただ真っ直ぐオーガのみぞおち目掛けて突っ込んだ。
「なっ! ギャボアアアアアアアアアアア!!」
オークは、みぞおちに衝撃を喰らい、激痛に見舞われながら、先程飲み込んだ人間の残骸を胃液ごと吐き出した。
「ワニャアアアア!! ぶっかけられたあああ!!」
その吐瀉物を、イネは、頭から掛けられてドロドロに汚れた。
「おおえ、おおう……」
オーガは、突進されたみぞおちを押さえながら悶絶していた。
惑は、イネに拍手をしながら近付いた。
「さすが! 獣の体を使い熟しているみたいだね! やっぱり君は理屈よりも感覚で学んだ方が伸びるね! 後で君がどうやって体を変貌させてるか教えてね!」
「言ってないで汚れ取ってええ!」
二人は、いつものようなやり取りをしている中、村人達は、驚きで呆然としていた。
「何だアイツ等」
「オーガをっ! いやまだ死んではいないが……それでも」
「おい、アイツ獣人じゃ!」
そんな中、村人の中から一人の青年が、二人に話しかける。
「ありがとう、この村を救ってくれて」
「ん?」
「えっ……と、どうも」
当然、二人は村を救たくてオーガを倒したのではない、ただイネの戦闘能力のデータを取る為に、攻撃を仕掛けたのだ。
しかし、結果的に二人は村を救っている。
「おおおお!!」
「凄いぞおおお!」
「ありがとう! 君達のおかげだ!」
村人達が、惑とイネに感謝を向けるのは、自然な事であった。
「ああ、そう、取り敢えずこのオーガを少し調べるけど良い?」
「え? ああ、それは良いが……」
「ありがとう! じゃあ鑑定」
惑は、鑑定スキルをオーガに使用する。
Name:レイト
HP:1000、MP:1000、攻撃力:10000、防御力:10000、スピード:90、知力:300魔法:攻撃力倍化、スキル:剛力、鬼人化、威嚇、狂化、甲殻化と記載されていた。
「へえ、こいつ名前あるのか……分析、スキルの説明」
『剛力は、攻撃力の倍加させます、鬼人化は、先程のように体を鬼化させてMPを消費し続ける間、攻撃力、防御力、スピードを倍加させます、威嚇は、相手を怯ませて動きを10秒間止めます、狂化は、HP、MPを消費させながら攻撃力、防御力、スピードを100倍にする、甲殻化は、皮膚を硬くして、20秒間攻撃から身を守り、ダメージを無効化します』
「スキルを採取する事は可能?」
『可能です』
「ちょ! 惑! スキルを採取って! そんな事出来るの!」
惑の言葉に、イネが驚愕する。
「出来るみたいだ、やはりこのアナウンスは僕にしか聞こえないか……」
「……?」
イネは不思議そうにしている中、惑は分析を続ける。
「スキルを保存する事は出来る?」
『所持している試験官、もしくはアイテムボックスの中に保存できます』
「なるほどねえ……試験官を選択に入れた理由は?」
『スキルを出した瞬間、スキル自体が分散し保存不能になる可能性があります、別の入れ物に保存すればアイテムボックスから出しても分散の可能性はなくなります』
「ふむ、じゃあコイツのスキルを採取」
『承知致しました』
「あぎゃあああああああ!!」
レイトが悲鳴を上げながら徐々に人型へと戻っていく。
「きざま……いっだい……」
すると、惑の掌にスキルと同じ数の光が吸い寄せられる。
「試験官」
アイテム袋から試験官をスキル分の数だけ出し、その中にスキルを入れてアイテムボックスに入れた。
「貴様あ!」
レイトは、惑を睨みながら掴もうとする。
しかし、イネがその腕を掴み、そのまま骨を捻り折った。
「っがああああああ!」
「ああ、もう殺して良いよ、後はコイツの素材だけを手に入れたらいいからもう死んでも問題ない」
「分かった」
「や! やめ……」
そのまま、イネはレイトの首を蹴り、脊椎をへし折った。
レイトはそのまま、動かなくなった。
「すげえ……」
「オーガを……あんなに簡単に……」
「ああ、救世主様あ〜」
村人は、二人を崇めるように見つめる。
『錬金術師のレベルが上がりました』
『スキル:変換を手に入れました』
『スキル:追加を手に入れました』
Name:西院円 惑
HP:1800、MP:1800、攻撃力:1800、防御力:2600、スピード:1500、知力:39000、魔法:なし、スキル:合成、採取、錬成、記録、複製、修復、変換、追加、職業:錬金術師Lv5
「スキルの説明、Lv4の時に得たスキルも」
『複製は、物や採取した素材、スキル等を対象に同じものを生成出来ます』
『修復は、壊れた物を元通りにします』
「死体は?」
『生命でない状態なので、可能です』
『変換は、取得したスキルを統合し、一つのスキルへと変えます、統合されたスキルを自由に使用出来ます』
『追加は、手に入れたスキルや魔法を自身もしくは対象者に加える事が出来ます』
「ふむ、なるほど……使い方を考えればなかなか使えそうだ……」
惑は、自身のスキルを確認しながら楽しそうにするが、すぐには使用しなかった。
惑は、村人の目線を無視して、オーガの体を狩猟ナイフで解剖し始める。
「うええ!」
「なるほど、作りは人間と似ているのか……だがこの臓器は見た事がない……分析」
『これは魔力貯蔵器官です、外気の空気から取り入れた魔力をここに貯めて魔法やスキルの使用時に使用します』
「へえ、この真ん中にある石みたいなのは?」
『魔石です、魔族や魔物は他の動物や人間と違い、魔石で魔力を増幅させる事で、通常よりも多くの魔力を保有し、回復速度も上げています』
「じゃあ、魔力貯蔵器官は他の人間や動物にも存在しているって事? 僕にも?」
『その通りです、惑様の場合は、この世界に召喚された時に追加され、そしてショートスリーパー時に集中的に魔力を取り込み回復しています』
「ふーん、そうか……」
「あの方は一人で何をおっしゃっているのだ?」
「放って置いてあげて下さい、多分自分のスキルと話しているんだと思います」
不思議がる村の青年の質問に、イネは淡白に答える。
惑は、二人の会話もそっちのけで分析を続ける。
「僕と他の人との違いはある? 他の人もショートスリーパーなら可能?」
『惑様と他の人との違いはあります、惑様は、異世界から召喚された際、この世界では効率の良い肉体へと作り変えられています、なので他の者がショートスリーパーをしても、惑様のような回復方法は望めません、しかし、魔石を取り込ませる事により、魔族並みの魔力を得られる事は出来ますが、魔力に体が耐え切れず、崩壊するリスクもあります』
「リスク……という事は、耐え切れる可能性もあると?」
『否定は出来ません』
「じゃあこの頭の角に関してはどういう役割?」
『オーガ特有の魔力を吸収する為の器官です、吸収された魔力を魔石に注ぎ、爆発的に増えた魔力を使い鬼人化するように出来ています』
「ふむ……そうか……記録」
何かを納得するように、記録のスキルで内容を保存した。
「ごめんね、じゃあ君達と話をしようか」
「ああ! そうだな! すまないがお願い出来るか?」
青年は、ブツブツと独り言を呟いていた惑から突然声を掛けられて驚くが、すぐに冷静になり話を続ける。
「この度はこの村を救っていただきありがとうございます……こちら少ないですが……」
青年は、懐から取り出した袋を惑とイネに渡す。
「くれるんだ、ありがとう」
「銅貨……20枚……」
「すみません、少なすぎますよね……でもこれがこの村の精一杯で……」
青年は申し訳なさそうにするが、惑は嬉しそうに銅貨をアイテムボックスへと入れる。
「僕としてはデータを取りたかっただけで別に助けたわけじゃないんだけど、まさかお金をくれるなんて! だから別にいいよ!」
その言葉に、青年は感動しながら涙を流す。
イネは、惑の様子を見て少し呆れ返る。
「ありがとうございます……それで……すごく言いにくい事なんですが……お願いがありまして」
「うん、聞くよ」
「惑!」
惑は、青年の話を真摯に聞こうとし、イネは止めに入る。
「どうしたの?」
「絶対厄介事だよ! 止めといた方が良いって!」
「ふーん、で? 話って何?」
しかし、惑は興味無さそうにしながら、青年に話を聞く。
青年は跪きながらお願いをする。
「どうか! どうか我々を助けてください! このままではいずれこの村はもちろん! 村人全員が死んでしまいます!」
その言葉に、イネは頭を抱えた。




