マイクロビキニの罠
少しR15
「こ、れは…… 何ですの?」
次期宗主に内定している公爵令嬢ジュリナリーゼ・ローゼンはその日、一日の公務を終えた後に自室へ戻り、明日に迫った婚約者一家との海辺でのバカンスに備えて荷物のチェックをしていた。
この国では王政は廃止されていて、代わりに宗主という旧王家の血の流れを汲む者が国民の象徴として存在している。現在はジュリナリーゼの母が宗主だが、次代は娘のジュリナリーゼが引き継ぐことになっている。
母は脚が悪く、首都から離れた遠隔地での公務はジュリナリーゼが担うことも多い。それなりに多忙なため、婚約者一家のバカンスに全日参加することは不可能だったが、日程を調整し初日と二日目だけ参加することになった。
バカンス先の近くには海があり、当然持ち物には水着が必要だった。
久しぶりに彼に会える嬉しさも手伝って、ウキウキと準備を進めていたジュリナリーゼだったが―――― トランクに詰めたはずの水着がなくなっていることに気付き、代わりに、見覚えのないヒモのようなものが入っているのを見つけてしまった。
ジュリナリーゼは、そのヒモを指で摘んで持ち上げてみた。
ヒモには飾り――というか、布が付いていた。とても面積の狭い三角形の布が二つ付いていて、そこから別のヒモも出ていた。形だけでいうなら下着のようにも見えるが、こんなものを着たとしたら、局部以外の大部分は出てしまう。
下着だとしたら破廉恥極まりないヒモ状のものを眺めて、疑問符いっぱいの表情になっているジュリナリーゼの背後に、いきなり人影が現れた。
部屋の扉からではなく突然その場に出現したその人物は、背中からジュリナリーゼに抱きついた。
「きゃあ!」
不意打ちを食らったジュリナリーゼは思わず悲鳴を上げた。
「リィー、ちゅーしてー」
背後を振り向くと、大好きで大好きで大好きで大好きで大好きすぎる、ジュリナリーゼの年の離れた美少年婚約者セシルがいて、甘えたように間延びした声を出しながら、可愛らしい仕草で首を傾けキスをねだってきた。
ジュリナリーゼは、瞬間移動の魔法を使って驚かせるように現れて、いきなり抱き着いてきたセシルに怒りを見せることもなく、むしろ大好きな彼に会えたことが嬉しすぎて笑顔になり、言われるがままセシルの唇にちゅっとキスをした。
「大好きよセシル」
「俺もリィのこと愛してるよ」
ジュリナリーゼからは一度キスをしただけだが、セシルからはその後、何倍もの回数のキスを贈られた。
「あれ? 気付いちゃった?」
濃厚なキスによってジュリナリーゼが頬を上気させ心拍数を上げている傍ら、白金髪に碧眼というまさに天使のような容貌を持つセシルは、ジュリナリーゼが未だ手に持っていたヒモ状のものに視線をやり、ニヤリと、まるで悪魔が浮かべるような意地の悪い笑みを見せた。
「これのこと? トランクから水着がなくなっていて、代わりに変なものが入っていたの。これは何かしら?」
トランクから消えてしまった水着は、ジュリナリーゼがセシルの好みも聞きながら、このバカンスのために新しく作らせたものだった。
ジュリナリーゼは二十歳を越えてもまだ胸が成長していたらしく、去年の水着が入らなくなってしまったのだ。
学生時代からの友人たちには、胸が大きくて羨ましいとよく言われるが、ジュリナリーゼとしては、ただ大きればいいものではないと思っていた。
服や下着で困ることもあったし、寝る時も少し邪魔だった。確かに大きいが、見た目の美しさ的にはそこだけ大きいのもどうなのだろうと思っていて、重要なのはバランスだと思っている。
「トランクの中にあった水着なら俺が持ってるよ。その水着と入れ替えたんだ」
「えっ! これが水着?」
セシルが言いながら、ジュリナリーゼの手の中にあるヒモを指差しているので、この世にこんな破廉恥な水着が存在しているのかと、お嬢様育ちのジュリナリーゼはかなりの衝撃を受けた。
「そう、水着…… マイクロビキニだよ。あのね、どんな水着が良いって相談された時に言えなかったんだけど、本当は俺はリィにそういう水着を着てほしいんだよねー。
本当は当日びっくりさせたくて、内緒にしてたんだけど」
どうやらセシルのいつもの悪戯が発動してしまったようで、セシルは魔法で元々の水着と卑猥水着を入れ替えていたらしい。
「む、無理! こんな破廉恥な水着着られないわ!」
「えー! お願い! 絶対に似合うよ!」
キラッキラな瞳でお願いされてしまうが、これを着たら貴族令嬢としての何かが死んでしまうと思ったジュリナリーゼは、必死な勢いで首を横に振って拒絶する。
「いつもはスケスケのやつ、お願いしたら着てくれるのにーっ!」
「そ、それは、見る人がセシルしかいないからよ! あなたのご家族もいるのに、こんなものとても着られないわ!」
「もちろん俺だってリィの身体は本当は誰にも見せたくないよ。明日は魔法を使って、マイクロビキニじゃなくて普通の水着を着ているように見せかけるつもりだったんだ。だから大丈夫! そこら辺は心配しないで!」
セシルに押されに押されてしまい、元々、大好きなセシルのわがままは何だって聞いてあげたいジュリナリーゼは、彼女にとっては水着とも呼べない水着を着ることを了承してしまった。
「じゃあ明日のために一回試着してみようか」
そしてノリノリなセシルに促され、ジュリナリーゼは人生初のマイクロビキニを試着することになってしまった。