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ブラッドレイ家の夏休み  作者: 鈴田在可
長男編

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2/21

「たわわ」だわ

 伯爵令嬢フィオナ・キャンベルは現在、快晴の空の下、青い海と白い砂浜で囲まれたキャンベル伯爵家の専用海岸プライベートビーチに立っていた。


「フィーお義姉さまー 早くおいでよー」


 水着姿になり、ボールを持って砂浜に立つ美少女然としたブラッドレイ家の六男シオンが、手を振りながら楽しそうな笑顔でフィオナに呼びかけてくる。


「う、うん……」


 連れ立って海辺に来る前に、一緒に遊ぼうとシオンと約束していたはずのフィオナだったが、少々硬い笑顔と共に歯切れの悪い返事をした。


「私たち先に遊んでるねー!」


 男であるが女児用の水着を着ているシオンはそう言って、隣にいた三歳上の美少年兄カインの腕を取って広い場所へと移動し、キャッキャウフフと砂浜でボール遊びを始めた。


 フィオナは海ですぐ遊べるようにと、半袖シャツとスカートの下に水着を――それもこの日のために張り切って用意した可愛いビキニを――着ていたが、意気揚々と服を脱ぐ前にハタリと手を止め、それ以上手を動かすことができなくなっていた。


 ちらちらと、遠慮がちに見てしまうフィオナの視線の先では、フィオナの婚約者ジュリアスの二番目の弟であるノエルが、婚約者になったばかりの有名モデル、アテナと共に海に入る準備をしていたが――――


(「たわわ」だわ…… うらやましいくらいの……)


 自分と同じ様に水着を下に着ていたアテナが服を脱ぐと、美しく理想的な大きさの女性の象徴が、バーン、と効果音が付きそうな勢いで現れた。


 金髪碧眼の美女アテナは水着写真集まで出していて、それが大評判になるくらいなので、スタイルは抜群だった。アテナの方が一つ年上とはいえ、自分とアテナの胸の状態は、月とスッポンもいい所だ。


(無理…… 脱げない…………)


 貴族令嬢ではあるものの、訳あって常日頃から鍛えているフィオナの腹筋は、バキバキに六つに割れている。


 ささやかすぎる胸とも相まって、とてもじゃないが水着姿など披露できるわけもなかった。


 フィオナには届かなかったが、ギルバートが手紙で懸念したように、彼女が水着姿で少年たちを悩殺するなんて、到底起こりそうもない。


(せめてワンピースタイプにしておけばよかった……)


 なぜビキニを選んだのか、浮かれすぎていた準備中の自分に間違いだと伝えたい。


「フィー、どうした?」


 横から婚約者の玉のような涼やかな声が響いてきて、沈んだ気持ちが本日の太陽の位置くらいまでには舞い上がり、清涼な空気感と幸福感で心が満たされたフィオナは、笑顔で自分の婚約者ジュリアスを振り返った。


 ジュリアスの輝く白金髪は絵画では絶対に再現できない色合いと滑らかさを誇り、至高の宝石のような碧眼はこの海よりも空よりも青く澄み渡っていて、彼に見つめられるとそれだけで全身から波打つような大いなる力の源が沸き起こってくる気がする。


 ジュリアスの顔の造形は天空の美神がこの世に降り給うたかの如く、輝くような最高級のご尊顔をしている。

 ジュリアスは「美しい」という形容詞を何度も重ねてようやく彼の持つ圧倒的な美貌の足元に及ぶだろうか、という程の美しさと、魔性のような色気まで兼ね備えている。


 そんな完璧美青年こそが、フィオナの恋人で婚約者で仕事上の相棒でもあるブラッドレイ家の長男ジュリアスだ。


 ジュリアスに声をかけられただけで、フィオナはニコニコと上機嫌になった。


 仕事中はあまりデレデレしていると差し障りがあるので顔を引き締めているが、今は休暇中であり、専用海岸プライベートビーチには、婚姻前とはいえもはや家族同然のブラッドレイ家の関係者しかいない。いつものように自分自身を押し殺さなくてもよい。


「ううん、何でもない」


 しかし水着姿だけは曝け出せないと思ったフィオナは、スカートは脱いだが上のシャツはそのまま残して、身体のコンプレックスを見せないようにした。


「遊んでくるね!」


 とフィオナはジュリアスに声をかけると元気に走り出してシオンたちの元へと向かった。


「…………」


 ジュリアスは無言でフィオナを見送り、何かを考えるように美しい指を顎に添えた後、自身も水着姿になるべく服に手をかけた。


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