夏の思い出
R15注意
部屋を飛び出し、滞在中の別荘も飛び出したロゼは、ただひたすらに走っていた。
魔力はないが普通の人間よりも体力のあるロゼは、自分の脚力だけを頼りに闇夜の中を猛然と走り続け、ようやく、目的地のとある村へと辿り着いた。
その小さな村には夏の盛りに子宝祈願の祭りを開催している。村に唯一ある寺院の周囲では露店なども出ているが、精力増強のための薬などもこれ見よがしに売られていたりする。
寺院の祭壇にはこの時期だけ、巨大な木造のご本尊が祀られていて、ご本尊が乾かないようにと、夜中でも一定の時間で水を掛けなければならないそうだ。
こんな夜更けでは露店も閉まっているだろうが、水を掛ける役割の司祭を始めとして、誰か起きている者に尋ねれば薬が手に入るのではないかと、ロゼはその可能性に賭けていた。
ロゼが欲しいのは睡眠薬だ。薬でアークを眠らせ、その間に思う存分✕✕を搾り取ってやるつもりだ。
(妊活への執念舐めんなよおおぉぉぉっ!)
ロゼの思いが天へ届いたのか、村に入ってすぐ、真夜中にも関わらず若者同士でワイワイと集まって語り合っている集団を見つけた。
運良くその中の一人に実家が薬屋を営んでいるという若者がいたため、ロゼは頼み込んで睡眠薬と、それから、枯れてもまた復活できるという精力増強剤と、そして、「子供ができやすくなる薬」なるものをお勧めされるがまま購入した。
再び走って別荘に戻って来た頃には、もうすぐ夜明けという時間帯だった。ロゼは超強力睡眠薬と精力増強剤を口移しでアークへ飲ませてから、自身も子供ができやすくなる薬を飲んだ。
ロゼは逸る心を抑えながらシャワーでさっと汗を流した後に、アークに相対した。
アークは仕事で家にいないことも多いが、ロゼは本当は、アークのそばに四六時中ずっといたいと思っている。
ロゼにとってはアークこそが幸せの源だった。
薬の影響なのか、アークは昼過ぎにようやく起き出してきた。
ロゼも疲れたからと適当な理由をつけて、レオハルトをアークに任せて部屋に籠もっていた。
ロゼは夕食時に会ったシオンに、念願の受精を見破られて声を上げられるまでは、昨夜の出来事は内緒にしていた。
ロゼの胎の中に新しい命が宿ったことを知ったアークは、珍しくも顔に驚きの表情を浮かべていたので、ロゼは夫を出し抜けたことに歓喜した。
アークは昨夜のロゼの行動を魔法で探った後、半ば呆れてもいたようだったが、出来たものはしょうがないと、本当は嬉しいくせにそんなことも言っていた。
ところが、ロゼがアークにギャフンと言わせることができたのはそこまでで、妊娠で体調が悪くなることを見越したアークに、彼女は半ば監禁のように部屋に連れ込まれた。
ロゼはアークに白旗を揚げ続けた。
その結果ロゼは滞在中の初日しか海遊びができなかったが、別荘でずっとアークの愛を独り占めできたことは、夏の良い思い出となった。
《後日談》
「ねえカイちゃん、そろそろ性別わかるかしら? 見てもらってもいい?」
「あ、そうだね…… じゃあ見てみるね」
透視魔法で自分のお腹を探るカインを見ながら、ロゼはワクワクしていた。
「えーっと……」
「どっち? どっち?」
カインはとても言い難そうにしている。
「………………男」
「何でよぉぉぉぉっ!」
父編了




