御手紙
『拝啓 フィー様
お久しぶりでございます。あなたの専属使用人になりたいギルバートです。よもやお忘れではございませんよね?
この度、海辺に近いキャンベル伯爵家の別荘に、ブラッドレイ様御一家とお泊まりで、
お泊りで、、、
そう、よりにもよって、お泊りで、、、
夏季休暇を兼ねて遊びに行かれるそうですね。
今回、使用人の類は不要との旨を仰せつかっておりますが、私はフィー様の御身が大変心配です。
婚約者様とご一緒、とはいえ、彼の恐ろしき美形揃いで有名なブラッドレイの兄弟たちと連泊されて、フィー様の可憐なる魅力に撃ち抜かれるだろう狼たちと、一つ屋根の下…………
私は気高きあなた様の尊厳をお守りしたいのです。婚約者様には別のお部屋にお泊りいただき、私が一晩中おそばでフィー様をお守り申し上げたい。
この季節、きっと海水浴もなさるのでしょう。フィー様の清らかなるお美しき水着姿によって、思春期を迎えられるご兄弟様たちの劣情が激しく刺激されることが、私は甚だ心配で、こうして手紙を認めている所存です。
別荘には、ご三男ノエル様のご婚約者様であるアテナ様と、ご四男セシル様のご婚約者様であらせられる次期宗主ジュリナリーゼ様も、ご多忙を縫って極秘でご参加なさると聞き及んでおります。
是非に、夜はブラッドレイの奥方ロゼ様を筆頭に、女性同士で同じ部屋にお泊りなさることをお勧め致します。
母とは、偉大なる存在であります。
如何にフィー様の魅力に吸い寄せられた害虫とて、お母様が一喝なされば、自らの不埒を反省し恥じて霧散なさること間違いなしです。
フィー様の純潔がこれ以上破られ(以下水分が滲んで解読不能)
とにかく、許可なく領地から出られぬ私は、魅力的なあなた様が、男どもに夜這いされたり、水着姿を好色的な目付きで見られることがないようにと、ただひたすらに祈るばかりです』
キャンベル伯爵家の使用人であるギルバートが、伯爵家の令嬢であるフィオナ宛に書いた重苦しい手紙は、それを検分した女伯爵キャスリンに、ため息一つ吐かれて握り潰されたために、届けられることはなかった。
しかし、もしもフィオナがその過保護すぎる手紙を読んでいたとしても、そんなことあるかいなと祖母キャスリンと同様にため息を吐き出したことだろう。
補足:ギルバートは使用人ですが血筋的にフィオナの叔父です