愛の世界
「愛の世界」
校庭の男子トイレ。放課後にわざわざこの蒸し暑いトイレに誰かがくることは無い。
だから都合が良いのだ。
胸ぐらを掴んで、俯く彼を思い切り殴る。…反応が薄い。まだ足りてない。首を締め、頭突きをする。鼻血が流れた。
「…もうやめてほしい」
泣きながら、絞り出すような声で彼が言った。なんて愛らしいんだろう。続けて、何度も何度も殴る。拳が痛い。きっと彼も痛い。
二人は今、痛みで繋がってる。
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僕は喋るのが下手だった。何でも笑ってやり過ごしてるうち、気付いたらイジメの標的になっていた。
蹴られて殴られる毎日。その中でも彼は特別だった。人気者でクラスの中心である彼は、暴力の中でも積極的で、一番に僕を愛してくれた。
「あのクソ教師が舐めやがって」
彼のストレスは僕にぶつけられる。彼の拳が頬にぶつかり、そうして彼の怒りは僕への愛に変換される。繋がっているんだ。
でも僕たちとクラスみんなの愛の時間は突然終わってしまった。イジメの動画がネットに投稿されたのだ。映っていたのは彼と僕。僕を蹴り上げ、拳を振るう彼の姿がしっかりと映っていた。
責任は全て彼に押し付けられ、僕へのイジメは無くなった。心にぽっかりと穴が空いたようだった。誰も僕を見てくれなくなった。
「辛かったね。もう大丈夫だよ」
生ぬるくて気持ちの悪い言葉ばかりが周りに溢れる。吐きそうだ。
彼はその人気も立場も失った。日に日にやせ細っていく姿は痛々しく、抜け殻のようだった。
何もかも壊されてしまった。今のままじゃダメだ。
一人でとぼとぼと下校する彼の腕を掴む
「…お前か。いきなり何だよ。今までのことは悪かった。謝るよ。もうたくさんなんだ」
謝ってほしいわけじゃないんだ。
「また前みたいにしてほしいんだ」
言葉が上手く出ない
「戻りたいんだよ。僕を見てよ
愛し合いたいんだ。」
「気持ち悪い…何なんだよお前」
冷たくそう言い放った彼の目は震えていた
そうか。彼には足りてないんだ。愛が。
だからこんなにも冷たいのだ。
大丈夫だよ。今度は僕が、君を愛してあげるからね。
彼の腕を掴んで路地裏に引きずり込む、痩せ細った身体で必死に抵抗する彼。
そんなのじゃ、全然足らないよ
こぼしてしまわないようにしっかりと服を掴んで、拳で彼を愛した。怯える表情は愛おしい。きっとまだ足りてないんだ。だからそんなに震えているんだろう?
愛 愛 愛 愛 愛 僕のありったけを彼にぶつける。この痛みという名の愛の世界には僕たち二人だけしかいないんだ。やっと帰ってこれた。
君が愛してくれた分、僕も君を愛すから。
ずっと一緒だ。だって愛は永遠なのだから