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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
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9:雪原の如き光の中で君を想う②

 ──速攻で黙らせて逃げるしかない。


 そう意気込んでいた第四魔王だったが、イヅメが手にした太刀の力を目の当たりにしていたせいで、警戒心が高まっていた。巨剣が巻き起こした土煙の中からイヅメが飛び出す。その斬撃の餌食にならないよう、第四魔王は距離を取った。チラリと見ると、ベテルギウスがリナを背負って戦闘の邪魔にならないよう移動しているのが見えた。

 第四魔王が視線を動かしたその一瞬の隙を突いて、イヅメが間合いを詰めてくる。病み上がりで速さはなかったが、第四魔王を(ひる)ませるには充分だった。


「クソ! なんなんだ、お前は!」


 第四魔王は叫びながら光の刃を飛ばす。イヅメはそれを容易(たやす)くかわして太刀を振るった。第四魔王の防護魔法の光陣が太刀を弾く。


「貴様こそ何者だ」


 イヅメが刀に気を送ると、再び色鮮やかなオーラが刀身を覆う。


「それやめろって!」


 第四魔王は忌々しそうに声を上げて、拘束魔法でイヅメの両足を地面に釘付けにする。間髪入れずに光の矢を放った。イヅメは拘束された地面を斬りつけて強引に脱出する。

 オーラを(まと)わせた太刀を第四魔王に向けて投げ飛ばすと、イヅメはその背後を影のように追走した。第四魔王が光の波紋で太刀を吹き飛ばそうとするが、魔力の渦の中を切り裂いて飛来する切っ先に恐れをなして空中に退避した。

 太刀の(つか)を握ったイヅメは勢いよく地面を蹴って上空の第四魔王に向けて通常の斬撃を浴びせた。第四魔王の左腕が飛んで、彼女は地面に逃げ場を求めた。後を追って地上に着地するイヅメが対峙(たいじ)する。

 第四魔王は怒りを露わにして魔力を膨れ上がらせるが、イヅメの視線は空に向いていた。


 ハッと息を飲んで、背後の空を振り返った第四魔王の眼に魔王の小さな姿が浮かんでいた。


 ──しまった……!


 第四魔王が心の中に呟くのと、鎌を持った魔王が残像を伴って彼女のそばの地面に足をついたのは同時だった。

 第四魔王は右腕も斬り飛ばされていた。


「何をしている、ベテルギウス?」


 壮絶な赤い瞳を受けて、ベテルギウスは絶句した。


「リナを連れて逃げろ!」


 第四魔王は即座に顕現して、再生した腕で背後から魔王を押さえつけようとした。魔王はそれを軽く挙げた片手から発した魔力の波動だけで弾き飛ばした。


 ──あの少女を守っている?


 イヅメは魔王のターゲットに選ばれたベテルギウスが抱えるリナに目をやった。

 第四魔王が必死の形相で魔王に手を伸ばしていた。その様子にイヅメは己の認識を覆されたような気がした。

 なにより、突然現れた小さな少女から感じるにおいが、第七魔王や第四魔王よりも遥かにおぞましさを秘めているという事実に最大級の警戒をイヅメに強いた。


「全力で逃げろ!」


 イヅメは叫んでいた。

 持てる限りの力で魔王の進路上に飛び出し、千々秋月(ちぢしゅうげつ)極彩色(ごくさいしき)の斬撃を放った。魔力を打ち消す神速の一閃にさすがの魔王も目を丸くして飛び退()いた。

 その期に、第四魔王はベテルギウスの手を取って転移魔法を発動させ、姿を消した。


「久しくその力を見ていないな」


 魔王が引きつった笑みを浮かべた。


「貴様が元凶か」


 イヅメが命を燃やすほどの気力を太刀に込めると、千々秋月は呼応するように燃え上がるオーラを噴き上がらせた。


「そいつがここにあるのは(かんば)しくないのでな」


 魔王はそっと言葉を(こぼ)して、赤い眼を目を輝かせた。


「悪は滅せよ」


 溺れるような魔王の魔力の渦の中で、イヅメは何ひとつ動じることなどなかった。

 魔王の手のひらで星のように煌めく光の粒が弾けた。白光(びゃっこう)が辺りを包んで飲み込む。

 目が(くら)むイヅメの身体から力が抜けていく。千々秋月が手から離れて吹き飛ぶ。世界全てが光に満ちるかというほどの破局の力の中で、イヅメは最期の時を感じていた。


 ──イヅメ。


 光の中に、共に戦ったナズサの姿が見えたような気がした。

 イヅメはそっと手を伸ばした。

 その手をナズサが握ったような気がして、イヅメは微笑んだ。

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