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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
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幕間:聖都の戦い その後②

~第四魔王とベテルギウスはなぜ行動を共にすることになったのか?~



 遠くで聞こえていた女の絶叫の正体を知って、ベテルギウスは戦慄した。暗い部屋の奥にある透明な筒の中で、リナが気を失っていた。部屋の中にいた黒衣(こくえ)の研究者たちの姿がどこにもない。

 筒の中に足を踏み入れて、リナの身体に触れる。温かい身体は身動(みじろ)ぎひとつしないが、ゆっくりと呼吸はしている。白い肌の奥に灰色の血管が透けて見えた。

 装置からリナの身体を解放し、抱きかかえるとベテルギウスにはリナの身体が軽く感じられた。


 ベテルギウスはその後も建物の中を捜索したが、騒ぎを受けて人の姿はなくなっていた。エミリアの姿もどこにもない。代わりに見つかったのは、彼女が手にしていた竜退治の槍(ドラゴンスレイヤー)だけだ。ベテルギウスはその槍を念のために取って、リナを背負いながらアーガイルが囚われていた部屋へ急いだ。


   ***


 扉を破壊して中に入ると、血だまりの中にアーガイルが倒れていた。ベテルギウスにはひと目見て分かる。アーガイルが死んでいるのだ、と。

 リナを床に下ろし、アーガイルの亡骸(なきがら)のそばに膝を突く。同時に彼女の脳裏に魔王の顔が浮かびあがる。唐突に現れた人間に、あの魔王は心を奪われているようにベテルギウスには見えた。


 ──これを見たら、魔王様は……。


 口惜しいが、魔王は悲しみに暮れるだろう。その表情を見るのは、ベテルギウスにとって何よりも辛いことだ。


「アーガイル!」穴の開いた壁から第四魔王が飛び込んできた。「──なんだ、お前は!」


 ベテルギウスは対峙した第四魔王が臨戦態勢に移行するのを感じたが、戦う意思を見せなかった。


「あんたが何者かはどうでもいい。何があったの?」


 ベテルギウスの深刻な表情を目の当たりにして、第四魔王も自分の中の戦意が萎えていくのを感じた。


傀儡(くぐつ)にした奴が暴走して……」


「魔王様が見たら、殺されるわよ」


「もう殺されかけた」


 ベテルギウスは顔をしかめた。


「リナを助けてくれたの?」


 第四魔王は床に横たわるリナを指さした。ベテルギウスは答える代わりに質問を返す。


「彼女を知ってるの?」


「マスターに守るように言われた」


 第四魔王は寂しげな目を血の中のアーガイルへ向けた。


   ***


 魔王がアーガイルの遺体を見つける可能性を考えて、ベテルギウスと第四魔王は聖都の外れでアーガイルを荼毘(だび)に付すことにした。

 燃え盛る炎と空に昇る黒煙を見上げて、第四魔王は溜息をついた。その横で、ベテルギウスはリナの身体を抱え上げる。第四魔王は鋭く問いかける。


「どこに行くの?」


「エミリアを探しに」


 自分の目的と変わらない名前が飛び出てきて、第四魔王は思いがけず声を漏らしてしまった。


「なんで?」


「おそらく、連れ去られた」


「どこに?」


 ベテルギウスは鼻で笑う。


「質問ばかりね」


 立ち去ろうとするベテルギウスの前に第四魔王が躍り出る。


「アーガイルにリナとエミリアを頼まれた! その頼みを無下(むげ)にできない。エミリアの居場所に心当たりは?」


「あるわけないでしょ」


「じゃあ、どこに行くつもりなの?」


「ヴァレフ。リナを回復させるために」


 ベテルギウスが飛翔魔法を発動させようという時、第四魔王が彼女の手首を掴んだ。


「魔王に察知されるのはマズい。魔法を使うな」


「それはあんたの事情でしょ」


「アタシはヴァレフとかいう場所がどこにあるか知らないんだよ。連れてけ」


「断る」


 リナを抱え竜退治の槍(ドラゴンスレイヤー)を手に行こうとするベテルギウスを遮って、第四魔王は言う。


「連れてかないなら、リナを渡せ。言っとくけど、アタシは本気だぞ」


 鋭い眼光を受けて、ベテルギウスは深い溜息をついた。


「歩いて行けば、時間がかかるわよ」


「転移魔法で連れてけ」


「あのね……」ベテルギウスは肩をすくめる。「転移魔法では明確にイメージできる場所にしか転移できない。私はヴァレフのことを詳しく知らない」


「じゃあ、アタシを掴んで飛んで行ってよ」


 ベテルギウスは歩き出してしまう。


「そんなことするなら歩いてく方がマシよ」


「ちょっと! 待ってよ!」


 ベテルギウスの後を慌てて追いかけて、第四魔王は駆け出した。

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