幕間:軟らかい心
~メスタで言葉を交わす藍綬と第七魔王~
情報収集をすると言って宿屋を出て行こうとする第七魔王を藍綬は引き止めた。不安に塗れた表情に、第七魔王は声を潜める。
「なんだ?」
世界を跨いだとはいえ、時間的にはついさきほどまで敵対していた二人だ。そんな中で藍綬が見せた弱さに第七魔王は内心面食らってしまった。
「あの力は一体……?」
あの力──藍綬の腕を覆った鈍色の外皮だ。龍王ダレンサランの一撃を難なく受け止めた強度は計り知れないものだ。
「間違いない。あれは魔族の力だ。何者だ、お前は?」
「私は……普通の人間だよ」
藍綬はそう答えたが、それならばあり得ないことだ。それ以前にも、たびたび不思議な力を発現させてきた。
「私の中には、アーガイルという別の誰かがいるらしくて……」
「いや、私は見た。お前の身体にOSが取り込まれていったのを。どういう理屈か知らないが、あの力がお前の中に宿ったのだろう」
「OS──骨骼兵器って一体何なの?」
「異獣の骨を再利用して作られた対異獣兵器だ。お前も汚染値のモニタリングを受けただろう」
藍綬の目が鋭く細められる。
「あなたは一体……何者なの?」
第七魔王は鼻で笑う。
「お互いに相手が分からない同士だな」
その言葉を残して行こうとする第七魔王だが、藍綬がその進路に立ちはだかる。
「私はどうすればいい?」
「お前自身でいたいなら、飲み込まれるな」
メスタの街に消えていく第七魔王の背中を見送って、藍綬は唐突に猛烈な孤独感に苛まれた。
──ママ、パパ……、会いたいよ。
宿の部屋からイヅメの咳が漏れ聞こえてくる。藍綬は自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
──私がしっかりしなきゃ……。
その決意とは裏腹に、その瞳は不安に揺れていた。




