幕間:分からないことばかり
~メスタを訪れた藍綬たち~
おかしいと思ってはいた。
街へ向かう街道で多くの人とすれ違っていたのだ。誰もが不安を抱えたような顔をしていた。
「大変な時に来たね!」
街が上を下への大騒ぎの中、露店の商人が私たちへ声を張り上げた。第七魔王は溜息をついた。
「なんなんだ、この騒ぎは?」
「まったく、迷惑な話だよ! それより、こんな物騒なんだ。身を守るものでも買って行かないか?」
ぐいぐいと迫る商人を押しやって、第七魔王は雑踏を掻き分けて行く。イヅメに肩を貸しながら私はその背中を追う。だが、ずっと胸の中に引っかかっていることがあった。
「なんで言葉が分かるの……?」
このアニメみたいな世界に急にやって来て、言葉も違うはずだ。この街で飛び交っている言葉を私は何の労もせず理解できている。ということは、日本語なのか……? そんなバカな。ここでもそんなアニメみたいなご都合主義があるというのか?
「そんなことはどうでもいい。しかし、まさかこんな愚か者どもの街に辿り着くとは……」
私はイヅメの横顔を見つめる。彼は獣人だ。明らかに私の世界とは違う異世界からやって来た存在だ。そんな彼も私と言葉を交わすことができている。よくよく思い出せば、異世界からの住人たちが集まっていたあの地下空間でも、私はコミュニケーションに苦労しなかった。
「藍綬、奴に気を許すな」
私の耳元でイヅメがそう囁いた。その眼は第七魔王に向けられている。
「分かってる。私だってあいつを信用してるわけじゃない」
イヅメは小さくうなずいたが、その手が彼の腰に佩いた太刀をきつく掴んでいるのを私は見逃さなかった。
私たちは第七魔王に命を奪われかけたのだ。彼は私を超越者と呼んだ。それが何なのか、そして、この世界が何なのか、私は分からないままだ。そして、いまさら第七魔王に教えを乞う気にもなれなかった。
だから、私にはもうシリウスを探して彼に会う以外、心を支えるものなどないのだ。




