表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
72/107

18:燻る怒りが解き放たれる時

 視界が歪んで、清涼感のある空気が駆け抜けたように感じた。次の瞬間には、私とイヅメは薄暗い小部屋に立っていた。小部屋の中央には、六つのリングのついた細い背もたれの椅子……。

 建御名方(タケミナカタ)のコックピットだ。

 茫然自失のイヅメを横目にリングを()めて椅子に座る。コックピットの内側に張られたモニターが起動して、明かりに包まれる。


<建御名方 起動>


 その文字が表示されて、私の身体に建御名方(タケミナカタ)の感覚が流れ込んでくる。イヅメが呟いた。


「これは……骨骼(こっかく)兵器の中?」


「一か八かここに飛べるか試してみたの。私の予感は当たった!」


 イヅメと戦った時、空間が流れ去るあの感覚が私に閃きを与えてくれたのだ。コックピットに音声が溢れ出した。


『誰だ、建御名方(タケミナカタ)を動かしてんのは?!』


 司令の声だった。私は腹に力を込めて(こた)えた。それは、私にとって宣戦布告だった。


四路坂(しろさか)です! あなたたちを許さない!」


『待て、話を──』


 司令からの音声を切断して、建御名方(タケミナカタ)を動かす。どういう状態に置かれていたのか分からないが、立ち上がると建御名方(タケミナカタ)の頭が格納庫の天井をぶち破った。その穴に拳を突っ込んで一気に屋根を破壊した。

 頭の中にシリウスをイメージする。建御名方(タケミナカタ)の身体から炎が(ほとばし)って、高熱が周囲を溶かす。鎮守府の外壁が崩れて、夜明け前の空が顔を出した。殯森(もがりもり)の声がスピーカーから聞こえる。


『四路坂さん、あなたは今、世界を敵に回してる!』


 そんなこと、どうでもよかった。

 いや、私は何も分からずにこんなことをしているのかもしれない。だが、声を投げかけてくる大人たちが私には全て敵に思えた。


「四路坂!」崩壊する鎮守府の轟音の中、突き出たキャットウォークの上に立つ司令の姿があった。「俺たちには()すべきことがあるんだよ! 生きるための血路を切り(ひら)かなきゃなんねえんだ! 綺麗事ばっかじゃねえんだ!」


 詭弁(きべん)に思えた。

 私の視界には、コックピットの隅で背中を丸めるイヅメの姿が映っている。彼はその〝綺麗事〟で大切な人を失ったのだ。


「そうやって正義を掲げて全てを正当化してるだけでしょう!」


「聞け!」司令が声を張り上げる。「俺たちはこの世界を守り抜かなきゃいけねえんだよ!」


 言葉を投げ合うのはもう無駄だ。イヅメに目をやる。


「掴まってて」


 そう告げて、建御名方(タケミナカタ)で鎮守府の外壁に空いた穴から外へ飛び出した。


『待てぇ!!』


 聞き覚えのある女の声がして、建御名方(タケミナカタ)の右脇腹を凄まじい衝撃が襲った。見ると、右足だけ色の違う骨骼兵器──改修途中のメツトリが空中で足を突き出していた。この声は……プリシラだ。

 イヅメがコックピットの中を転がる。


『人類の敵! 今ここでお前をぶっ殺してやるよ!』


 こちらが態勢を整えるよりも先にメツトリが身軽に動いて、建御名方(タケミナカタ)の背中に(かかと)を落としてきた。(たま)らずに地面まで急降下して激突する。モニターにノイズが走り、上下も分からないほどに揺さぶられた。イヅメは私の椅子に手をかけてなんとか踏ん張ってくれたようだ。

 少し離れた場所に私の後を追うようにメツトリが着地した。

 私の頭の中にはシリウスのことしかなかった。彼を助けに行かなければ。それなのに……。


『あたしはエリートなんだ! お前の代わりにこんな島国を守れ? 舐めるな!!』


 意味の分からない怒号を発して、メツトリがこちらに突進してくる。それを全身で受け止め、メツトリの鳩尾(みぞおち)に膝をぶち込む。


『お前なんかに負けてたまるか!』


 メツトリの拳が建御名方(タケミナカタ)の顔面を捉える。モニターの映像が一部欠落した。死がすぐそこまで来ているような恐怖が私の身体を突き抜ける。


『お前はここで死ぬんだよ!』


「うるさい! 私は死なない!!」


 プリシラの声を遮って、建御名方(タケミナカタ)の腕を空間の向こう側に伸ばす。異形(いぎょう)の剣を引きずり出して振り払い、メツトリの頭を吹き飛ばす。フラフラと立ち尽くすその胴体に異形の剣の切っ先を突きつけて、私は滅線(めっせん)を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ