15:流星に乗ってやって来るもの
『おい、クリス、バンカーバスターぶち込んでんのに生き残ってる奴がいるぞ』
『叩き潰すのが俺らの仕事だ』
後方に控えていた骨骼兵器が槌を振り下ろす。シリウスが炎を噴き上げて槌を弾くと、骨骼兵器から驚嘆の声が上がる。
『なんだ、こいつ! アビドたちはこんな奴がいるなんて言ってなかったぞ!』
替えのドライバーたちだ。だが、なぜここが分かった?
シリウスが私の手を引いて瓦礫の中を駆けていく。
『逃げても無駄なんだよ!』
再び巨大な槌が振り下ろされて行く手の地下構造が崩壊する。私たちは今や天井が落ちたコンクリートの箱の中に囚われていた。
シリウスの身体から火の粉が巻き上がる。もうイヅメの剣の効力は収まったらしい。
「ボクがこいつらを叩く。藍綬たちはその隙に鎮守府へ向かえ」
「そんな無茶な……!」
シリウスは炎を纏うと、背中を向けて骨骼兵器へ飛び掛かった。
『バカか、こいつ!』
片方の骨骼兵器の槌がシリウスを直撃して、彼の身体がコンクリートの地面に叩きつけられる。すかさずそこへもう1機の骨骼兵器が巨大な機関銃で銃弾を容赦なく叩き込んでいく。
「シリウス!」
私が叫ぶと、崩れた瓦礫の中から無数の火球が発射されて骨骼兵器を襲うが、緩慢なスピードのせいで避けられてしまう。
イヅメが風のように駆け出した。
『無鉄砲な奴だ』
骨骼兵器の機関銃が向けられ、銃声が轟く。イヅメは素早くそれを回避しながら骨骼兵器の腕を駆け上がっていく。
周囲がモノクロになり、あっという間に極彩色の斬撃が機関銃を持った方の骨骼兵器の胸から上にぶつけられた。骨骼兵器が膝から崩れ落ちて、地響きが轟く。もう1機の骨骼兵器の拳が空中に留まるイヅメを正面から捉える。吹き飛ばされるイヅメが地面に叩きつけられると、周囲に色が戻った。
──終わりだ。
骨骼兵器がこちらに来る。身体が震えた。
それでも、ここで戦わねばという思いが込み上げてくる。今までに感じたことのない闘争心だった。
目の前の空間に手を伸ばす。空間の向こう側で指先が何かに触れる。それを一気に引きずり出した。禍々しい剣のようなものが現れる。
『超越者だ!』
膝を突いた方の骨骼兵器のドライバーが叫んだ。こちらに近づいてきた骨骼兵器が応じる。
『この女を確保する!』
骨骼兵器の手が私の方へ伸びてくる。私は異形の剣の切っ先を無意識に前に突き出した。
グバッと音がして、剣の先が割れる。次の瞬間、眩い光の線が放たれて、目の前の骨骼兵器の脇腹に穴を開けた。
『滅線! こいつやっぱり、異獣の仲間だ!』
滅線で穴の開いた骨骼兵器が火花を上げて後退する。その足元に、炎の鞭のようなものが巻きついた。瓦礫の中から伸びたシリウスの手から放たれたのだ。その隙を突いて、砂埃を被ったイヅメが太刀を構えて飛び上がり、その刃を骨骼兵器の身体へ振り下ろそうとした。
その時だった。
夜空の彼方から空気を切り裂くような音と閃光が一条降り注いできた。衝撃が大地を揺らし、舞い散る砂埃を吹き飛ばした。イヅメもその勢いで吹き飛ばされる。その渦中に、人影がひとつ佇んでいた。
パープルブロンドの頭髪をなびかせ、漆黒のマントを身にまとった男。その赤い眼が私を捉えていた。
「人間どもに任せていては埒が明かん」
『なんだ、お前は──?!』
突然現れた謎の男の背に骨骼兵器のドライバーたちが問いかける。
返事の代わりなのか、謎の男の身体が光に包まれた。その燃える炎のような光が2機の骨骼兵器へ伸びていく。まるで操り人形が動き出すように、勢いよく骨骼兵器が立ち上がる。
「お前たちに命じる。この女を確保せよ」
謎の男が厳かに口を開くと、骨骼兵器が戦闘態勢を取り始めた。ドライバーたちが雄叫びを上げる。
謎の男の身体が浮かび上がり、手で合図をすると、骨骼兵器がこちらに飛び掛かって来た。




