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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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幕間:劣等感を抱いて眠れ

~ターンオーバードライバーとして派遣される二人の少年~



「おい、クリス、久しぶりじゃないか」


 ヒスパニック系の少年が拳を突き出すと、二人は拳骨(げんこつ)をコツンとやって再会を祝した。


「俺たちは半年ぶりにOS(アス)に乗るんだぜ、イウバルト」


「乗るかは分からないだろ。それより、乗り方忘れたんじゃないだろうな?」


「そりゃ、お前の話だろ」


 OS(アス)のドライバーは1機に対し複数配備されている。OS(アス)搭乗後に汚染値が上昇するため、ドライバーにはターンオーバー要員が不可欠だ。国際異獣機関(IAO)は規定値以上の汚染を示すドライバーをOS(アス)に搭乗させることを禁止していることから、アイギスでは正ドライバーのOS(アス)搭乗が決定すると、ターンオーバー要員に待機命令が下されるプロトコルが組まれている。


「だいいち、なんでOS(アス)に乗ると汚染されるんだよ」


 イウバルトはこれで何度目になるか分からない疑問を口にする。そのことについて異獣学(いじゅうがく)の研究者たちは何も言及していない。

 イウバルトは続けて忌々(いまいま)しそうに言った。


「そんなもんさえなきゃ、こんなバカなことする必要もないのに」


 二人は軍用輸送機で日本へ移動中だ。今回はエエカトルとシバルバーがメツトリの支援で派遣されている。ドライバーのアビドとフランキーのターンオーバー要員としてイウバルトとクリスが帯同することとなった。


「日本で異獣が異常な頻度で出現してる。俺らがいないと回らないかもしれないんだとさ」


 クリスはそう言うが、イウバルトは素直にその言葉を飲み込むことができなかった。


   ***


 イウバルトの父はアイギスでOS(アス)の整備士を務めていた。父の仕事ぶりや世界を守るというその使命感に影響を受けた幼いイウバルトの夢がOS(アス)ドライバーになるのは必然的なことだったのかもしれない。

 OS(アス)ドライバーには操縦技術や高いGに耐えられる体力以上に汚染への耐性が必要不可欠であった。これだけは生まれ持ったもので、鍛えることができない。汚染への耐性がないことを理由にOS(アス)ドライバーへの道を諦めた人々をイウバルトは何人も見てきた。

 だからこそ、アイギスにOS(アス)ドライバー候補生として採用された時の喜びはひとしおだった。


「お前には適性がある。そのうち訪れるチャンスのために準備しておけ」


 教官にそう告げられ、イウバルトは夢の実現を間近に感じていた。


 チャンス──。

 しかし、それはOS(アス)ドライバーの枠が空くということであり、その理由について深く考えることをイウバルトは避けていた。


 二年前、西海岸を襲った異獣への初期対応を誤ったアイギスは当時のメツトリのために新開発した試験型の超振動ブレードと正ドライバーを一名を失った。

 メツトリのターンオーバー要員として配備されると思っていたイウバルトの前に現れたのがプリシラだった


「なぜ俺じゃないんです?」


 イウバルトは教官を捕まえて問い詰めた。


「総合的な判断だ」


 たとえターンオーバー要員であろうとも、OS(アス)への搭乗を許される立場になることはOS(アス)ドライバー候補生にとっての憧れであった。

 プリシラは当時の候補生の中で確かに有望株ではあったが、成績上ではイウバルトに分があったはずで、その理不尽に彼は打ちひしがれた。


 それからほどなくして、イウバルトはエエカトルのターンオーバー要員として配備されることになったが、その時にはプリシラはすでにメツトリの正ドライバーとして活躍していた。

 様々な要素が考慮されて、正ドライバーとターンオーバー要員は入れ替わる。その座を勝ち取ったプリシラは確かにドライバーとして優れていたのかもしれない。

 だが、イウバルトの中にはずっとしこりが残っていた。


 ──なぜ、俺じゃなかったんだ。


   ***


「まあ、俺たちの出る幕はないかもしれないがな」


 クリスが会話を続けていた。イウバルトは小さく舌打ちをする。


「所詮、俺らは保険だからな」


 プリシラの乗るメツトリはサードOS(アス)、イウバルトがターンオーバーとして待機するエエカトルはセカンドOS(アス)──序列は上だが、ドライバーとしての功績を残す正ドライバーよりターンオーバー要員が格下に見られるのは仕方のないことだった。


 深い溜息をついて座席を倒し、アイマスクをつけるイウバルトにクリスはポツリと言った。


「大丈夫さ。俺たちだって必要な存在なんだ」


 イウバルトはアイマスクをずらして珍しく殊勝なクリスを見つめた。

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