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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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13:勇み足

「無事か」


 シリウスが背中越しに私に()いた。辺りに色が戻ったからだろうか、その姿が妙に色づいて見えた。

 夏彦たちの乗った車が遠ざかっていく。虚無僧(こむそう)は車を追うのを諦めたようだった。再び風のように(はや)く、私たちに突進する。シリウスの身体越しに光陣を出現させて、最初の斬撃はなんとか防いだ。相手が(ひる)んだ隙にシリウスが拳を叩き込んで、私の手を取る。

 温かい手だった。


 路地を出て、民家の隙間に身を投じる。息を潜めて逃げながら、シリウスは手のひらから炎がうまく出せないのをもどかしそうに見つめていた。彼の手を取る。


「大丈夫、私が戦える!」


「君の力はアーガイルからの借り物だ。うまく使いこなすのは難しい」


「でも、あなたを守るから!」


 真っ直ぐと見つめる私に、彼は気圧(けお)されたようだった。


 近くでブロック塀がバラバラに切り刻まれて、虚無僧が姿を現した。その剣が私に向く。


「なんで私を狙う!」


「鎮守府の人間」


 自分の姿を見下ろして再認識する。ドライバースーツのままなのだ。そして、そこには鎮守府のロゴマークも入っている。


「待って! きっと話し合えば分かる!」


「問題無用」


 再び周囲がモノクロになる。極彩色(ごくさいしき)の残像を棚引(たなび)いて、虚無僧が迫る。


 ──俺に身体を寄越せ。


「嫌だ! 私は守りたい人のために戦う! あんたが力を貸せ!!」


 そう叫んで内なる声の答えも聞かずに飛び出した。我ながら、こんな無鉄砲だっただろうか、私は?


 その瞬間、空間が捻じ曲がったようになって、虚無僧がすれ違うようにしてあっという間に私の後方に吹き飛んでいた。

 いや、私が数十メートル先まで飛んだのだ。

 咄嗟に振り向いて、虚無僧の背後に光の矢を射る。背後からの私の攻撃を虚無僧は背中越しに防いで、素早い身のこなしで距離を取る。

 近くの家の屋根に静かに立つ虚無僧を()じり切るように手を捻ると、細い竜巻のようなものがその身体を引き裂いて吹き飛ばした。地面に転がる虚無僧の頭から笠が外れる。駆け寄る私とシリウスは、その顔を見て言葉を失ってしまった。

 狼の顔だ。


   ***


 獣人の男はアスファルトの地面に刀を置いて正座をし、笠を小脇に抱えて頭を下げた。


(わし)はイヅメ。この世界の者ではない。そして、突然刃を向けた無礼、誠に面目(めんぼく)ない。儂には鎮守府へ向かうべき用があったのだ」


「お前も別の世界から来たのか?」


「〝も〟ということは、其方(そなた)も?」


 シリウスはイヅメの肩を勢いよく掴んだ。


「元の世界へ戻る方法を探してるんだ!」


 あまりにもすごい剣幕なので、私は二人の間に割って入る。


「鎮守府に用ってなんですか?」


 獣の顔が物悲しく歪む。


「大切な仲間が捕らえられたままだ。なんとか助け出したい」


 シリウスの方を振り向くが、彼は首を振った。


「ダメだ。ボクだって一刻を争うんだ」


「シリウスがイヅメさんを助けてくれないなら、私はシリウスに協力しない」


 シリウスは舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。イヅメが立ち上がった。


「まずは二人を案内したい場所がある。そこで色々話も聞けるはずだ」


   ***


 下水道の先、広くなった空間に小さな街ができていた。都会の地下だというのに、こんな所があったとは。

 あちこちに火を焚いたドラム缶が置かれ、そのまわりに集まる異形(いぎょう)の者たちが私の格好に威嚇を始めた。

 イヅメが私たちを振り向く。オレンジ色の火の光を受けて、その眼がギラリと光る。


「ここが鎮守府から逃げてきた者たちの家だ」

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