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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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11:聖都の戦い②

「シグニ様!」


 部屋に飛び込んできた管理長ガビの顔面は蒼白だ。館内には警報が鳴り響いている。何者かがこの場所に侵入したのだ。

 振り返るシグニの赤い眼は冷徹だった。


「魔法障壁が消失しております! どうなされたのですか!」


「魔王に察知される危険性がある。私は聖都を出る。後の処理は任せた」


「そ、そんな勝手な……!」


 不満を露わにするガビに感情のない視線を寄越す。その腕には意識を失ったエミリアが抱えられていた。シグニは無言のまま転移魔法で姿を消してしまった。


   ***


 警報が館内を満たしたことで監視の目が緩んだ隙をついて、ベテルギウスはガビの部屋に侵入を試みていた。デスクには鍵のかかった引き出しがあり、錠前を破壊して彼女が中を確かめると、魔王から渡された金色の指輪が見つかる。彼女は胸を撫で下ろした。指輪の魔法を行使して、声を上げる。


「魔王様、緊急事態です!」


   ***


「出力を全開にしろ!」


 ホロヴィッツが叫んだ。ガラスポッドの中ではリナが捕らえられたままだ。


「ですから、それは──!」


 食い下がる黒衣(こくえ)の研究員を蹴り飛ばすと、ホロヴィッツはガラスポッドを制御する機器に手を伸ばした。


「こんな世界に居られるか!」


 リナの身体から火花が散り、それを核に光が(ほとばし)る。耳をつんざくリナの絶叫。


「見ろ! 〝扉〟が開くぞ!」


 リナの身体から立ち上った光の柱が部屋の天井をぶち抜いた。青空の向こうへ光が伸びていく。


「ホロヴィッツ様!」


 ガビが姿を現したが、ホロヴィッツは(かえり)みることなく光の中に身を投じた。その身体が光の柱に乗って天高く飛ばされていく。すぐに光が止んで、リナは再び意識を失った。


 外からは侵入者同士が争う音。ガビは意を決して、ホロヴィッツの後を追うように再び〝扉〟を開いた。光の中に足を踏み出す。


 光の先に何が待っているのか、彼もホロヴィッツも知らなかった。ただ、目の前に神が手を差し伸べたような光に(すが)ろうとしたのかもしれない。


   ***


 魔王城に呼び寄せられたのは、四天王のひとりシリウス、そしてクラウスだった。


「なぜこんな奴と一緒に……?」


「まあ、そう言うな、シリウス。お前も感じ取っただろうが、聖都メスタに第四魔王が現れた。お前たちで──」


 彼女の言葉を待たずしてクラウスが天窓をぶち破って飛び出して行った。それを見上げて、魔王は大口を開けて笑う。


「なんなんですか、アイツは! 無礼にもほどが──」


 しかし、魔王の真剣な眼差しが彼の口を(つぐ)ませる。


「お前には重要な任務がある」


「なんなりと!」


「アーガイルをここに連れ戻せ」


 その名前に、シリウスは一瞬だけ顔をしかめた。魔王がシリウスをじっと見つめる。


「頼む」


 魔王の短いその一言が、シリウスにはとても重いもののように感じられた。


 ──なぜあんな奴に魔王様は……。


   ***


 アーガイルが倒れた時、シリウスは絶望した。

 ほんの少しの差だった。クラウスの後を追って穴の開いた建物に飛び込んだ時には、アーガイルは胸から血を流して息絶えていた。

 凄まじい魔力が解放されて、第四魔王が本来の姿を顕現させる。だが、そんなことはシリウスにはどうでもいいことだった。


 ──魔王様の期待を裏切ってしまった……。


 その時だった。アーガイルの身体が光になって天に昇って行った。

 シリウスの脳裏に、聖都から立て続けに放出された謎の光のことが蘇っていた。

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