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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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9:絶体絶命

「壁に隠れて!」


 私は叫んで少年の腕を引っ張り、リビングから廊下に飛び出した。

 同時にヘリの機銃掃射が夏彦(なつひこ)の家を襲った。私のそばで少年が熱を帯びた身体を震わせる。


 ヘリの音と機銃の嵐が止んで、家を照らす光の中からひとりの戦闘服姿の男が姿を現した。手には小銃を構えている。


「やあ、君たち、私はクレイマン。アイギス特殊部隊の隊長だ。率直に言う。死ぬか殺されるかを選べ」


 無茶苦茶な選択肢だ。だが、この状況ではなす(すべ)がないのも事実だ。

 私と同じように廊下にやって来ていた明良(めいら)が壁の向こうに言葉を投げた。その声は力強く、大人しそうな彼女とは違っていた。


「私たちは日本のドライバーです! それを殺せば国際問題になる!」


「なあに」クレイマンは笑い()じりに(こた)える。「我々のもとにOS(アス)は5機あることになる。君たちの国を守ってやろう。今までと同じようにな」


 奴は交渉など(はな)から考慮していない。打つ手がない。

 明良はスマホを操作すると、それを握り締めた。何かのアプリが起動している。


葦原鎮守府(あしわらのちんじゅふ)を乗っ取るつもりですか!」


 彼女は声を張り上げた。


「もともと極東の島国にOS(アス)が配備されているのもおかしなことだった。その(ゆが)みが是正(ぜせい)されるだけさ」


「あなたは鎮守府の地下で異獣(いじゅう)の中に入っていた人が集められていることを知っていますか?!」


素体(そたい)は我々の未来の(いしずえ)となる」


 明良は何を目論(もくろ)んでいるのだろうか? 私たちにはどうしようもない、このまま殺される以外に。少年はまだ苦しんでいて、あの力に期待はできない。


 ──ならば、私しか……。


「つまり、対異獣機関は異獣を利用しているということですか!」


「ハッハッハ、君たちには知る必要のないことさ、永久にな」


 クレイマンの返答を聞いて、明良は立ち上がった。スマホを掲げながらリビングの入口に立つ。


「今の言葉は世界中に配信されました。世界中の人たちがどう思うでしょうね?」


 銃声がした。明良のスマホが弾け飛ぶ。彼女の脇腹を貫通した弾丸が廊下の壁に穴を穿(うが)った。彼女の細い身体が勢いよく倒れる。


「明良っ!!」


「総員、反撃に注意しつつ殲滅せよ」


 クレイマンの声が聞こえた。もう終わりだ。


 ────…………せ。

 ──……を。

 ──俺に明け渡せ、この身体を。


 モニターの電源を切るように、目の前が暗くなった。


   ***


四路坂(しろさか)!」


 夏彦の声で目が覚めた。彼の膝の上で眠っていたらしい。身体を振動が包み込んでいた。走行中の車の中だった。


「ここは……?」


 夏彦が車のリアウィンドウに目を向けた。

 遠い夜空が赤く染まっていた。ビルのような火柱が轟々と燃え上がっているのだ。夏彦の家の方向……。何が起こった?


「あれは?!」


「アンタがやったんだ、アーガイル」


 私の隣に座っていた少年がそう言った。


「またあなたが助けてくれたんだよ」


 運転席でハンドルを握る明良はそう言ったが、息も絶え絶えという様子だった。シートから血が(こぼ)れ落ちる。すぐに車は狭い路地で停車してしまった。

 ハンドルに身体を預ける明良は汗だくだ。


「病院へ行かないと!」


 私も夏彦もそう言ったが、明良は首を横に振る。


「どこへ行ってもあいつらに見つかる。そんなことになるくらいなら、死ぬわ」


「ボクの世界に戻れれば、あるいは……」


 希望をチラつかせる少年の金色の眼が、何かを思い返すようにギュッと細められた。

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