幕間:馴れ合い拒絶症
~日本で顔を合わせるアメリカのOSドライバーたち~
「なんであんたたちが来てんの!」
銀色の髪を振り乱して鬼のような剣幕でプリシラが怒鳴りつけるのは、アビドとフランキーだった。鎮守府内の広い食堂に金切り声が響き渡って、厨房の方から心配そうな目が覗く。
フランキーはアビドにアイコンタクトして肩をすくめる。
──ほらな。
アビドは暴れ馬でも落ち着かせるように両方の手のひらをプリシラに見せながら、落ち着け、というように視線を送った。
「異獣と関わりの恐れがあるドライバーに対処するためだ」
「あたしがいれば問題ないでしょ!」
「だから、僕たちは、カバー要員だ」
アビドは一語一語区切るように言葉を返す。
「なあ、おい、プリシラ」フランキーがヘラヘラした笑みを浮かべて彼女へ歩み寄る。「サードOSを任されてるってことは、有望株ってことなんだぜ。俺は四番目なんだからよ。もっとどっしりしていろよ、なあ?」
「うるさい! 二番目連れてあたしを嘲笑おうって魂胆だろ!」
プリシラの射るような視線がアビドへ向けられる。アビドは、やれやれ、というように首を振った。
「僕たちは異獣と戦う同志なんだ。僕たちがまとまらないでどうする?」
「馴れ合いたいなら勝手にすれば!」
プリシラはそっぽを向いて、そのまま部屋を出て行ってしまった。湯気を立てる丼が取り残される。
「飯を捨てて行きやがった」
フランキーがバツの悪そうな顔をアビドに向けたが、彼は平静を保ったまま食堂のカウンターに向かって歩き出していた。
***
──この任務に固執してるみたいじゃない!
プリシラはあてがわれた自室に戻るなり、ベッドに飛び乗って枕を蹴り飛ばした。
──こんなところで油売ってる場合じゃないんだ、私は!
ひとしきり枕を叩きつけたりして怒りを発散させると、彼女はデスクの上の写真立てに目を向けた。住んでいたニュージャージーの家から持ち出すことが許された数少ないもののひとつが、その家族写真だった。
プリシラは親指の腹で一緒に写っている両親と弟の顔を撫でた。
誰も死なせないためにOSに乗り込むことを決意したはずだった。国を守るために戦う心づもりだった。こんな極東の島国ではなく、米国を。
昔から負けず嫌いだった。だから、いきなり目の前に現れたアビドとフランキーに彼女は動揺してしまった。
自分はアイギスに信用されていないのでは、と。
だから、自分ひとりいれば大丈夫だなどと口走ってしまった。彼女にとっては、こんなどうでもいい任務からさっさと身を引いて米国に戻りたかったはずなのに。
椅子に腰を下ろすと、静寂が彼女を包み込む。
いつからか、彼女のまわりからは笑い声も消えてしまった。




