幕間:いたずらごころ
~カバー要員として日本へ~
ピンク色のシャツを着たチョコレート色の肌をした少年が白いヘッドホンをつけて身体を揺らしている。
向かい側に座ったそばかすの目立つ赤毛の少年がニヤニヤしながら丸めたティッシュを対面する相手に投げつけた。
億劫そうにヘッドホンを外した少年が顔をしかめる。
「なにしてる、フランキー?」
フランキーは顎で小さな丸い窓の外を示した。
「見えてきたぞ、アビド」
窓の外には遥か眼下に海が広がっている。その向こうに青白くかすんだ列島がぼやけて見える。日本だ。アビドがヘッドホンを首に掛けて冷めた視線をフランキーへ送る。
「そりゃあ、フライトしてるんだから、いつかは到着するだろうよ」
「つれねーなぁ。エエカトルみたいにがっつりかかってこいよ」
「ボクのOSは関係ないだろ」
フランキーはフーッと息を吐き出してシートに身を預けると足を組んで窓の外に目をやった。
「プリシラのカバーで俺たちを派遣するなら、俺たちをメインで派遣すりゃあいいのにな」
「イーサンが彼女に経験を積ませようとしてる。仕方ないことさ」
「ま、こういうサプライズ、俺は嫌いじゃないけどな。プリシラは知らないんだろ?」
「あいつはプライドが高いから知らせない方がいいとイーサンが言っていた」
「違いない。ところで、飯食いに行く時間あるかな?」
能天気な問い掛けにアビドは目を落としていたスマホから顔を上げた。
「ホームステイに行くんじゃないんだぞ」
「だってよぉ、たまにはうまいもん食いたいじゃん。いつも似たようなもんばっかりで囚人になった気分だよ」
「刑務所に入ったことあるのかよ?」
フランキーは歯を見せた。
「もののたとえってやつよ」
「日本の鎮守府は料理もいけてるらしいぞ。小耳に挟んだだけだがな」
「マジで?!」
フランキーは目を輝かせる。しかし、その表情が途端に曇り始めた。
「だけどよ、プリシラのカバーとして俺ら二人も要るのかって話なんだよな。フロリダだけでアメリカ全土を守れるのかよ?」
「それだけ警戒してるんだろ」
「マジで異獣が人間に化けてるとか思ってんのか、アイギスの連中は?」
アビドはフランキーに倣うように窓の外に目をやった。薄い雲が引いて、列島の海岸線が露わになる。
「考えてもみろよ。昔なら日本のアニメみたいな状況が現実のものになってるんだ。何が起こってもおかしくない」
「それにしたってビビりすぎだろ。日陰者かよ」
アビドは微かに笑みを浮かべた。
「それはお前に同感」
「まあ、いいさ」フランキーは余裕を浮かべる。「異獣どもと戦うことになっても、初っ端からお前がぶっ放せばだいたい終わる。俺は付添人みたいなもんだ」
アビドは任務を丸投げされて鼻で笑った。
「お前は大人しく向ておけばいいさ、〝大工さん〟」
「お前なあ!」フランキーは思わず立ち上がってしまう。「ハンマーのシバルバーだって人気あるんだぞ!」
「ミサイルのエエカトルよりも?」
アビドが悪戯っぽく問いかけると、フランキーは「ぐぬぬ……」と返す言葉を失ってしまった。




