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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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幕間:幼い棘

~日本へ移動する機内にて~



「なんなの、そいつ?」


 イーサンの報告を受けて、プリシラの灰色の目が厳しい視線を投げかける。機外の爆音を(うと)ましく感じているのか、その声もどこか張り上げるようだった。


「すまないが、こちらにも情報の詳細が来てるわけじゃないんだ。これ以上は分からん」


 イーサンがお手上げだというように手を広げると、プリシラは舌打ちした。


「もし異獣(いじゅう)だったらどうすんのよ?」


「即座に処理をする」


「もし暴走かなんかして、止められなかったら? 誰が責任を取るの?」


 イーサンは重々しく額を撫でて、ふぅ、と一息ついた。


 ──議論をしたいわけじゃないんだがな。


「そうならないよう、完全なコントロール下に置くさ」


 不服そうにそっぽを向く彼女の銀色の髪が揺れる。汚染を受けるようになってからなのか、彼女のブロンドは色を失っていった。昔は空のように綺麗な青をしていた瞳もくすんでいき、今では灰色に。

 プリシラはそのことは気にしていないようだったが、OS(アス)のドライバーとしてアイギスのメンバーになってからは、身の回りのものから色が消えていったのをイーサンは知っていた。


 あの日、プリシラは日常を失った。


 長い歴史の中で数少ない異獣の複数出現。その蹂躙を受けたニュージャージーの海沿いの街がプリシラの故郷だった。

 米国(アメリカ)では、異獣の襲撃を受けた街の住人は汚染値チェックが行われる。プリシラはそこで〝発見〟された。

 その時、彼女は孤児になったばかりだった。


「なんであたしだったの?」


 物思いに(ふけ)るイーサンの耳にプリシラの声が届く。


「ええと、何が?」


「だーかーらー」プリシラが鼻の頭に(しわ)を寄せる。「なんで日本なんかにあたしを飛ばすのよ?」


「飛ばすとは人聞きの悪い。君の腕を買ってのことだよ。友人を手助けするだけさ」


「ふん。たまたまOS(アス)を手に入れただけで、ずいぶんなご身分よね」


 国際異獣機関(IAO)が日本にOS(アス)──骨骼(こっかく)兵器を配備する承認を下し、葦原鎮守府(あしわらのちんじゅふ)発足を公表した時、米国(アメリカ)の世論は揺れた。OS(アス)という強力な武力を日本が有することの是非が国内で割れたのだ。


「おかげで環太平洋の異獣対策はグンと楽になったんだ」


 言い返されて、プリシラは勢いよく立ち上がった。


「あと一時間程度で到着だぞ」


「メツトリの様子を見てくるだけよ!」


 この航空機の格納庫には整備中のメツトリも載っている。プリシラは鼻息荒く客室を出て行った。

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