4:戦いの中で
建御名方の頭部は幾何学的なパネルで覆われていて、幾多の直線の交わりが顔のような模様を作り上げていた。
歯を食いしばって憎悪に満ちたような双眸を真っ直ぐと前に向けているようなその顔を前に、私の心臓は早鐘を打っていた。
ピチピチしたドライバースーツが身体を締めつける。顔をしかめていると、殯森が早口で言う。
「そのスーツは汚染の影響を最低限に抑え込むためのものでもあるから我慢してちょうだい」
建御名方の胸がパックリと開いて、コックピットが露わになっている。私は急いで中に入ろうとしたが、殯森が私の腕を掴んだ。
「コックピット内の全方位視認システムのためのカメラが頭部にあるから破壊されないで」
「早く行かないと、学校が!」
建御名方のコックピットは簡素だ。首元までを支える細い背もたれのある椅子に、六つのリングがくっついている。
頭、腰、四肢をそのリングで固定する。拘束されている感じはない。どのリングも私の動きに合わせて動くようにできているのだ。
コックピットが閉じ、内部モニターに周囲の映像が投影される。司令の声がした。
『カタパルトから射出する。舌を噛むなよ』
身構えるより先に、ジェットコースターとは比べ物にならないほど凄まじいGがかかって、暗い射出口を上昇していく。
パッと周囲が明るくなる。建御名方は遥か上空に打ち上がっていて、地上に街が小さく見えていた。私が生まれ育った街だ。
『建御名方には飛行能力はねえ。空中で体勢を変えて目的地へ向かえ!』
モニターに目的地がマークされる。映像がアップになって、異獣が高校に足を踏み入れていた。
手足を動かすと、建御名方も動きをトレースしているのが分かる。
高校目がけて急降下する。全身に衝撃があって、建御名方は着地した。恐ろしく頑丈だ。
学校はシェルターを兼ねている。生徒たちは地下に避難したらしく、校内に人影はない。
無数の尖った角を生やした異形のものがこちらを見た。
『思う存分暴れてみろ』
司令の言葉で異獣に突進する。
肩をぶつけたつもりだったが、異獣が身を躱していた。気づくと、目の前に異獣の腕が迫っていた。
もろに一撃を食らって、建御名方が背中から地面に叩きつけられる。覆い被さって来た異獣の頭が縦に割れて、その中で眩い光が輝いた。殯森の叫ぶ声がする。
『滅線よ! 全力で回避して!』
「急に言われても!!」
思い切り身体をよじって異獣の横っ腹に蹴りをお見舞いする。
異獣の口から放たれた光が大気を震わせて春の青空を照らした。モニター映像にノイズが走る。
体勢を整えて異獣と距離を取った。
「こっちに武器はないんですか?!」
『そんなものに期待する前に奴をぶん殴れ!』
──なんて乱暴な。
光が見えて身体を斜めに倒すと、滅線が走って小さな山を吹き飛ばした。
『そこは避難済み。安心して』
異獣との距離を詰めて、その頭をボコボコにぶん殴る。建御名方を通して、その感覚が私にフィードバックされている。
異獣の頭が青い血まみれになる。腹に拳を叩き込むと、異獣は咆哮を上げて地面に背中をつけた。
短い時間コックピットで動いているだけなのに、私は汗だくだった。
『完全に沈黙させろ』
「どうすれば?!」
『頭を引き千切ってやれ』
立ち上がる異獣目がけて地面を蹴って、その首を掴もうとした。
その時、異獣の頭に生えた無数の角がジャキンと音を立てて広がった。爆発音がして、その角が全方位へ向けて発射される。
ガツン、と音がして、突き刺さった異獣の角がモニターを破った。紙一重で角は私を逸れていた。
言葉を失っていると、建御名方の身体が引っ張られた。異獣が現れる時の光が迸る。
『おい! 〝扉〟が開くぞ!』
『建御名方を引き込もうとしてる?!』
『四路坂、全力で抵抗しろ!!』
内緒で胸元に下げていた、花を閉じ込めたガラス球のネックレスが揺れた。
訳も分からずに両手を突き出した。ノイズだらけのモニターいっぱいに謎の光陣が現れて、それが建御名方を掴む異獣の腕を断ち切っていた。
そして、意識が飛んだ。




