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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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3:ターンオーバー

 目を開けた私は病院で着させられるような服でベッドに横になっていた。あのアニメみたいな状況にちょっと頭が混乱する。

 異獣(いじゅう)建御名方(タケミナカタ)の戦いを間近で見て、血を浴びて……それでここに運び込まれたのだ。

 身を起こす。大きな個人病室のようだ。

 部屋のドアが音もなく開き、看護師らしき人が顔を覗かせる。


「あら、起きたのね」


「ここは?」


「特務機関・葦原鎮守府(あしわらのちんじゅふ)よ。藍綬(らんじゅ)さんはここに運ばれてきたの。(おぼ)えていない?」


「私は怪我なんてしてません」


 看護師が(こた)えようという時、ドアが開いた。

 現れたのはボブカットのスラッとした女性。


四路坂(しろさか)さん、今すぐに来てもらう」


「いや、藍綬さんはまだ目覚めたばかりで──」


「重要なことよ。すぐに着替えて」


 私は彼女の言う通りにした。母みたいに話があっちこっちいかない分、動きやすい。

 そういえば、両親はどうしただろう? 夏彦は? 私と一緒にヘリに乗ったあの子は?


   ***


 建物の最上階に向かい、最奥の部屋に通される。大きな机の上に腰を下ろした男がシャボン玉を吹き散らかしていた。


「おっ、ご苦労さん、殯森(もがりもり)


「遊んでないで仕事して下さい、司令」


「あんだよ。大人だって遊んでいいだろ」


「多くの責任を負っている自覚を持って下さい」


 下らないやりとりに唖然としていると、司令と呼ばれた男は私に視線を投げた。


(わり)ぃな、四路坂」


「私はなんでここに呼ばれたんですか?」


「異獣の血に触れると汚染が始まるんだよ。だから除染が必要なの。お前の制服は破棄させてもらった。後で新品を用意させるけどな」


 だから私は味気ないスウェットの上下だ。

 横合いから殯森が手にしたタブレットを差し出してきた。数々の情報が表示された謎の画面だ。


「あなたの汚染耐性は異常値を示している。通常の骨骼(こっかく)兵器ドライバーの70万倍はある」


 司令がニィッと歯を見せる。


「つまり、お前は骨骼兵器に乗る適正能力があるってわけだ。おそらくは、この地球上の誰よりも」


「何が言いたいんですか?」


 尋ねたが彼らの思惑に見当はつく。司令はグッと身を乗り出した。


「ドライバーにも除染は必要だ。朝霧(あさぎり)ひとりじゃ、いつか潰れちまう」


 ──あの子はひとりで戦っているのか?


「俺たちはお前を正式な──」


 突然、アラートが鳴り響いた。


『異獣発生確率の規定値超過を確認。総員第2種戦闘配置へ移行せよ』


「ウソでしょ?!」殯森が驚愕の眼でスピーカーを見上げる。「間隔(インターバル)が短すぎる!」


「こりゃあ、やべえことになったな……」


「どうなってるんですか?」


「シンプルに言うと、建御名方(タケミナカタ)に乗れる奴が誰もいねえのに異獣が来るっつーこと」


 殯森が冷や汗を飛ばす。


米国(アメリカ)に要請を……!」


「早くてもドライバー到着まで4時間はかかるなぁ」


 二人の視線が私に注がれる。そんなアニメみたいな展開……。


「私は無理ですよ。何も知らないんですから」


「あれは有事の際に訓練なしで誰でも動かせるように設計されている。お願い、あなたの力が必要なのよ!」


 ──どうしてこんなことに。


関内(かんない)の高校付近に異獣出現を関知。総員第1種戦闘配備』


 司令が壁のモニターを点ける。空撮映像が流れた。禍々(まがまが)しい姿の異獣が土煙を上げて街を破壊している。その進路上に私が通う高校があった。


 私は建御名方(タケミナカタ)に乗る決意を固めるしかなかった。

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