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「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになった  作者: 山野エル
第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
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幕間:日常的な襲撃の景①

藍綬(らんじゅ)中学三年生の冬~



 埠頭の先、朝靄(あさもや)がかる海上に火花が散った。火種のないそれはやがて激しさを増して、火花を核にして光が(ほとばし)る。

 咆哮と共に異空間から姿を現したのは、蛇のように長い四本の頭を持ち、首から下は馬のような異形のものだった。

 係留されていたタンカーがおもちゃのようにひっくり返されて、コンテナが散らばる。その轟音が早朝の港湾を目覚めさせる。


 数分後に陸に上陸した異獣(いじゅう)に対し、警察と自衛隊が港湾で活動していた人間や周辺の住民の避難を速やかに行っている。同時に、周辺の道路や交通機関は即座に封鎖された。


   ***


「あちゃ~、朝っぱらから困るんだよな……」


 食卓で藍綬の父が頭を掻き(むし)っていた。テレビニュースには、「異獣出現」のテロップが躍っている。

 藍綬が父親を睨みつけた。


「パパ、テーブルに抜け毛撒き散らさないでよ」


「俺、まだハゲてないから!」


 藍綬の父はそう嘆いて、スマホで電話を掛けながらリビングの方に歩いて行った。


「ねえ、藍綬の自転車どこ?!」


 大きな声を上げてダイニングに飛び込んできたのは、藍綬の母親だ。藍綬は聞こえよがしに溜息をついた。


「ガレージ。乗らなくなったから片付けようってママが言ったんでしょ」


 その言葉を聞くと、藍綬の母は(きびす)を返して廊下から声を投げて寄越した。


「ママ、自転車で行くから!  戸締まりとかちゃんとしてね!」


 電話中の父を一瞥して、藍綬はトーストをひとかじりした。


 ──タイヤの空気、抜けてるよね。


 藍綬はそう思いながらも、あの人ならぺたんこのタイヤでも会社まで漕ぎきるだろうと他人事のように微笑した。


『鎮守府から建御名方(タケミナカタ)が到着した模様です!』


 テレビからリポーターの興奮した声が溢れ出す。

 上空から建御名方(タケミナカタ)の赤と白の身体が降り立って、砂煙を巻き上げる。すでにビル群や道路は蹂躙され、あちこちで火災が発生していた。


 ──また遅れて来てる。


 画面を見る藍綬の眼は厳しい光を帯びていた。街が破壊され、人が怪我をして、生活が滞った頃に骨骼(こっかく)兵器はやって来る。それがいつも藍綬の心に引っかかっていた。


 建御名方(タケミナカタ)がミニチュアのような自動車を蹴散らしながら異獣に飛び掛かる。

 あの自動車やビルたちは、国が補償をしてくれるらしい。そのための対異獣保障の予算額が去年は1兆円に達したことでちょっとした議論が噴出したのだが、藍綬はテスト用紙に書く以上のことはよく分かっていなかった。


 チャンネルを変えても、どの放送局も建御名方(タケミナカタ)と異獣の戦いの様子を中継していた。局によっては、建御名方(タケミナカタ)の戦闘データなどを検証して盛り上げようとすらしている。


 藍綬はひとり肩をすくめてテレビを消した。


「なんだ? 建御名方(タケミナカタ)観ないのか?」


 電話を終えた父が食卓に戻ってくる。藍綬は返事の代わりに時計に目をやった。


「パパ、まだ出なくていいの?」


「とりあえず、異獣が死ぬまで自宅待機だとさ。部屋で仕事してるから、戸締まりはいいよ」


 藍綬は生返事をして食器を洗いにシンクに向かった。スポンジをくしゅくしゅして洗剤を泡立てる間、藍綬はふと疑問に思った。


 ──あの建御名方(タケミナカタ)に乗っているのは誰なんだろう?


 骨骼兵器のドライバーについて、鎮守府も政府も情報を公開していなかった。


 ──私には関係ないか。


 藍綬は小さく苦笑いした。

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