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第1章と第2章の幕間:葛藤と決心

~第四魔王が聖都(せいと)メスタへ~



 眷属(けんぞく)のもとへ舞い込む召集命令──召令(しょうれい)は時を(さかのぼ)ってもたらされる。


 ──第四魔王よ、ここに。


 アーガイルのその声が聞こえた時、第四魔王はマルガから遠く離れた地で雌伏(しふく)の時を過ごしていた。

 第四魔王がアーガイルに接触すると魔王が予測していたのと同じように、第四魔王はアーガイルが自分を呼び出す時がやって来ると踏んでいた。

 しかし、それは彼女が思っていたよりも早く訪れた。


「エラトゥ、行くぞ」


 エラトゥというのはヨハン八世の身体を乗っ取った第四魔王の臣下のことだ。


「はっ」


 幼い子どもの姿が第四魔王のそばに(かしず)く。


「ん? ボルボリはどうしたんだ?」


 エラトゥは顔をしかめる。


「あいつ、またどこかをほっつき回ってるんです。本当に自分勝手な奴ですよ、あいつは。聞いて下さい。アーガイル様が〝鍵〟だというのに、あいつはそれを殺そうとしたんですよ」


「ん~」第四魔王は頭を()(むし)った。「ゴチャゴチャうるさいなあ。早く呼んで来てよ」


 不服そうな表情を隠しもせずにエラトゥがボルボリを探しに行く。


 エラトゥもボルボリも第四魔王をこの世界に招来(しょうらい)する手立てを駆けずり回って探したらしい。そして、マルガの隣国が極秘裏に深淵魔術という禁術の研究を行っているという情報を掴むと、マルガによる侵攻を封じるために要人の身体を乗っ取った。

 そこまではよかったが、ヨハン八世に偽装したエラトゥがダリス宰相に運悪く幽閉されてしまった。だから、サルーンに扮したボルボリはヨハン八世の救出作戦を練っていたのだ。


 ──頑張るバカは(ぎょ)するのが難しい。


 第四魔王は肩を落としたが、それでもあの二人を邪険にはできなかった。出来の悪い臣下ほど、時に可愛く思えてしまうものだ。


   ***


「あれは、龍王(りゅうおう)ダレンサラン……!」


 聖都メスタを望む山の上でサルーンの姿をしたボルボリが溜息をついていた。


「なんじゃそりゃ?」


 第四魔王が気の抜けた返事をするが、エラトゥも強張った表情を見せる。


「この世界じゃ知る人ぞ知る魔物の王ですよ。そんな奴が聖都の上空を守ってる」


 第四魔王は考えていた。

 聖都には全体を包み込むような魔法障壁が展開されていた。彼女の魔眼によれば、その魔法障壁は魔力を抑制し、魔族を検知するようだった。


「はぁ……。あの姿にはなりたくないんだよなぁ……」


 肩を落とす第四魔王をボルボリが笑う。


「どうしたんですか、第四魔王様? 昔は(はえ)になって色んなところに潜り込んでたじゃないですか」


 第四魔王は知っていた。この世界では、蠅は嫌われている。


 ──アイツに嫌われちゃうかもしれないだろ。


 だが、そんなこと、心の機微(きび)なんて分からないような臣下に打ち明けることなど彼女にはできなかった。


「そんなこと言ってられないな」


 彼女は自分に言い聞かせるように立ち上がると、蠅の姿になって飛び出した。


「お前たちはここで待機! 何かあったら思う存分暴れに来い!」


「何かってなんです?!」


 エラトゥが問いかける。


「それくらい自分で考えろ!」


 そう答える第四魔王の脳裏には、微かに嫌な予感が(よぎ)っていた。

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