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第1章17と18の幕間:確かな誓い

~初めての竜狩りの日~



 朝日が昇ろうとしていた。

 ベルトラムは家の窓際に立って、空が(しら)んでいくのを眺めていた。

 その手には、古びたネックレスが握られていた。大きな身体の彼が身につけるにしてはあまりにもチェーンが短い。

 その口からは、つい溜息が漏れてしまう。


 ──本当にいいのだろうか?


 エミリアの笑顔に支えられていたはずの思いが土壇場になって瓦解しそうになる。

 彼女を正式に竜狩りとして認めてしまえば、もう後戻りはできなくなる。

 手にしていたネックレスを強く握りしめる。


 ──君はどう思う?


 ベルトラムはゆったりと明るさを増していく空に問い掛けた。そして、ひとり口元を緩ませる。その目元はいつになく物悲しそうで。


 あの子を守ってね──。


 あの時の言葉がベルトラムの中に蘇って、身体の中を駆け回った。


 ──もちろん、守るさ。だが、あの子にもっと相応(ふさわ)しい生き方があるんじゃないかと、ずっと考えていたんだ。


 そばの壁に立てかけた槍に目をやる。彼がエミリアのために作り上げた竜退治の槍(ドラゴンスレイヤー)だ。これを打ち上げた時に覚悟はできていたつもりだった。


 あの子の望むように生きてくれたら──。


 ベルトラムは怖かったのだ。彼女が本当は何を望んでいるのかを知るのが。竜狩りなどしたくなかったかもしれない。もしそう返されたら、竜狩りと鍛冶しかないベルトラムは途方に暮れてしまうだろう。


「パパ、もう起きてたの?」


 突然、背後から声を掛けられて、ベルトラムは思わずネックレスを手の中に隠した。


「今日は早起きじゃないか、エミリア」


 エミリアはぱっちりとした目でベルトラムを見つめた。


「だって、今日は私の初めての竜狩りの日だよ!」


 その眼が輝いていた。


「エミリアは、本当は──」


 言葉が勝手にベルトラムの口を突いて出た。途切れた声にエミリアがキョトンと目を丸くする。


「なに、パパ?」


「いや、なんでもない」


 エミリアが悪戯(いたずら)っぽい笑顔を見せる。


「もしかして、緊張してるの?」


「そんなことはないさ」


「安心してよ。私は立派な竜狩りになるんだから、パパは見守ってくれればいいの」


 胸を張って言う娘の姿に、ベルトラムの耳朶(じだ)にあの言葉がリフレインする。


 あの子を守ってね──。


 ベルトラムはフッと笑った。

 ずるずると思いを引きずり続けてきたのは自分だけかもしれない。


「それじゃあ、出る準備をしよう」


 エミリアが強くうなずいて部屋を出ていく。


 窓を振り返るベルトラムの眼に朝の光が飛び込んでくる。


 ──守るさ。命に賭けて。

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