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第1章14と15の幕間:辛く激しく

~第四魔王飛来直前~



「せーばーすーちゃーんー!」


 その声があの頃とは違う響きを持っていることにセバスチャンは頬を緩ませた。

 彼女がどこにいるのか、今なら分かる。セバスチャンは真っ直ぐに玉座の前に向かった。アーガイルと契約を交わした日から、彼女はいつもそこにいるようになった。


「お呼びでございますか、魔王様?」


 爛々(らんらん)と輝く眼がセバスチャンに向けられる。


「アーガイルはどこで何をしているだろうか?」


「使い魔を放ちましょうか?」


「セバスチャン」魔王はゆるゆると首を横に振る。「何が入っているか分からない箱を開けるまでの高揚感が至福をもたらすんだぞ」


左様(さよう)でございましたか。魔王様は素晴らしきお考えをお持ちですね」


 魔王は玉座から飛び跳ねるように立ち上がって、身軽そうにぴょんぴょんと歩き回った。


彼奴(あやつ)は人間のくせに面白い! 今にとんでもないことをするに違いないぞ!」


「退屈」が口癖だった彼女がウキウキした様子で飛び跳ねるのを見て、セバスチャンは我が事のように笑みを浮かべた。


「アーガイル様と共には旅にお出にならないのですか?」


「魔王が魔王城にいないでどうする? 他の勇者がやって来た時にがっかりするだろう」


「なんとお優しい」


 セバスチャンが感服していると、

 瞬間、立ち止まった魔王の眼差しが強靭な光を宿した。


「──来た」


 その口角がきゅっと上がり、赤い眼が輝きを放ったのをセバスチャンは見逃さなかった。


 遥か遠くに凄まじい魔力の源が現れたのはセバスチャンにも分かる。


「ちょっと行ってくるぞ」


 玉座の間の天窓を魔法で開いて、魔王の小さな身体が飛んで行った。転移魔法を使わなかったのは、楽しもうとしているからだ。


 この世界を遊ぶ──。


 魔王はそのために生きているのではないかと、セバスチャンは思うことがある。

 ゆっくりと閉じていく天窓を見上げると、セバスチャンは心を込めた。


「お気をつけて」

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