第1章9と10の幕間:ライバルとして
~アーガイル騎士団入団後~
長く伸びる足で一歩踏み込むと、クラウスは練習用の剣を思いきり横に薙いだ。ひょいと飛び上がったアーガイルがそれを回避すると、爪先を伸ばした足を空中でクラウスの鼻っ面に叩き込む。
苦悶の声がして、クラウスが堪らずに地面に転がった。
「卑怯だぞ、お前! 剣技で戦え!」
鼻血を流しながらクラウスが立ち上がる。金髪碧眼の端正な顔立ちが怒りで崩れている。
「俺たちが戦うのは剣なんか持ってない連中だぞ。実戦でも魔物相手にそんなこと言うのか?」
アーガイルがニヤリと笑う。
「今は剣術鍛錬の時間だろ!」
クラウスが両手を広げて周囲を見回す。二人一組で剣を交える騎士見習いたちが汗を流していた。
「そこまでだ、二人とも」
剣術指南役のブロスが声を上げると、クラウスは不満を胸の中に押し込めて直立不動になった。
ブロスが笑う。
「アーガイル、俺はお前を曲芸師にしたいわけじゃない。真面目に剣を使え」
「すんません」
それを見て、今度はクラウスがニヤリとする。しかし、ブロスの声が飛んだ。
「だが、アーガイルの言うことももっともだぞ、クラウス。戦場で卑怯だなんだなんては通じない。今のが魔物の爪だったら、お前は死んでいたかもしれないんだ」
「ですが師匠……!」
ブロスは軽く手を挙げてクラウスを制した。
「議論をするつもりはない。顔を拭いて手当てをして来い」
ブロスの背中が遠ざかると、アーガイルが汗を拭くための襤褸切れをクラウスに投げて寄越した。
「悪かったな」
「ふん」クラウスは血を拭って不敵な笑みを浮かべた。「お前に成績で抜かれるわけにはいかないからな」
そう言って、転がっていた練習用の剣を拾い上げて構えた。
「なんだ? まだやるのかよ?」
「無論だ!」
叫ぶように気合を入れて地面を蹴るクラウスの眼は輝いていた。




