15:小休止①
魔王はリナが連れてきたエミリアに大きな鎌の刃を向けた。俺は慌てて間に入る。
「彼女は俺たちを守ろうとしただけなんだ」
エミリアの鋭い視線が俺の背中に刺さる。
彼女からしたら、俺なんて相手によってコロコロと態度を変える胡散臭い大人だろう。
「ふん」魔王はニヤリと笑って鎌を光の粒子に変えて消し飛ばす。「まあ、いい。その子どもの気概だけは買おうじゃないか」
リナが首を捻っている。
「……子ども? 同い年くらいに見えるけど」
王城の中や城壁の向こうの街からは人々の騒然とした様子が伝わってくる。
「ん? シリウスはどうした?」
魔王が訊くので、俺もリナも飛び上がりそうになってしまった。リナが咄嗟に答える。
「さっきの第四魔王とかいうのにやられてしまって……」
「仕方のない奴だな」
辺りが騒がしくなる。俺たちに事情を訊こうとマルガの軍人が集まって来ていた。
魔王が転移魔法の光陣を展開すると、俺たちの周囲の景色は瞬く間に夜の闇のような場所に様変わりした。
空を覆うのは黒煙で、そばには最果ての火山の火口が赤く燃えていた。
エミリアが驚いて周囲を見回しながら、リナにしがみついていた。いつの間にかリナは懐かれているようだ。
魔王がそばに光陣を呼び出すと、光の中からセバスチャンが出現した。魔王は短く命じた。
「シリウスの身体を用意しろ」
すぐにセバスチャンが魔法でシリウスの身体を作り上げると、魔王が印を刻みつけた。そしてその身体を火口に落としてしまった。
「そんな乱暴な……」
リナが呆れているとセバスチャンは笑った。
「魔王様の息吹によってこの世界の力を具現化したものが化身でございます」
じゃあ、俺が作った身体ではダメだったんじゃないか。
やがて、火口の中から青い炎の柱が立ち上った。嫌な予感がする。シリウスは俺に殺されたことを覚えているんじゃないか?
上空に浮かび上がった青い火球が弾けて、中から飛び出したシリウスが魔王のそばに跪いた。
「面倒を掛けるなよ、シリウス」
「申し訳ございません」
平伏するシリウスを尻目に、魔王は真剣な表情で俺たちを見つめた。
「これから私の城で大切な話をしなければならん。残りの四天王を呼び出すから、仲良くするんだぞ」
「四天王が……?!」
「ん? 何か問題でもあるのか?」
「い、いやっ、全然……!」
俺にはとぼけることしかできない。
プロキオンは俺がシリウスを殺したことを知っている。それが魔王に知られれば俺は……。
魔王が転移魔法の陣を展開しようとすると、俺の耳元にシリウスが近づいてきた。そして、小さな声で言う。
「アンタがやったこと、ボクは忘れてないからな」
背筋がぞわりとした。奴の顔を見ると、悪魔のような不気味な笑みで勝ち誇っている。不安要素が増えやがった……!
「何が望みだ?」
「ふん。ボクの言うことを聞いていればいいさ」
***
魔王城の玉座の間には、俺とリナ、エミリア、セバスチャン、シリウス、プロキオン、そして、見慣れないクールな見た目の女が揃っていた。
「あいつはどうしたんだ?」
プロキオンがここにいない四人目を睨みつけるように言うと、魔王が玉座で溜息をつく。
「彼奴は忙しいらしい。仕方ない奴だ」
突然、エミリアが叫び声を上げると、槍を構えてプロキオン目がけて突進する。
その槍の矛先がプロキオンの喉元でピタリと止まる。横合いから手を伸ばした謎の女がエミリアの槍の柄をこともなげに掴み取っていたのだ。
「ギャーギャー五月蠅いわよ、クソガキ」
魔王が玉座に就いたまま、魔力で女を捻じ伏せる。
「重要な話の場だ。控えろ、ベテルギウス」




