大都市の魔法使い【2】
警察署内部は、ある種いつも通りの活気と騒ぎに満ち溢れていた。
猩々緋 風音は敵対している関係のはずなのに、何食わぬ顔で正面玄関から入りドロテアの書斎に入っては小説を読み漁る。
遅れて部屋の主も入ってきて、常習化した事にリアクションを取らず風音の隣で漫画を読む。
半分漫画を読み終えた所で、隣は活字を目で追いながら若干埃っぽいのか咳を交えつつ話し出す。
「ナゾ子って人どう思う?」
「ナゾ子?」
突拍子もない人物にオウム返ししてしまう。特にこんなヤツに気を遣う必要はないと思いつつもつい癖で柔らかい言葉を選定する。
考えてる内に風音は窓を開け空気の喚起を始めた。外に顔を向けたまま。
「いつか、雷太君と衝突するだろうね。君の持ってるそのエメラルドが何を意味するか、魔女の君なら分かるはずさ」
漫画を読む手を止める。パタリと閉じては暗い表情の俯いたまま顔面は固まったままだ。
察するにエメラルドの正体を掴んでいない。いや、正確には敢えて掴んでいなかったか。
手の平を天に向けて「やれやれ」と首を横に振る。時々感じる甘さに盛大な呆れと少しの諦め。
振り向いて指先をくるくる、小さく炎でリングを作った。
軽くなぞるように放り投げてぼーっと立ち尽くすドロテアの頬をかすめる。
「あちっ」
ぶつかってリングは火の粉になり空中に消えてゆく。若干赤い跡ができた。
「これは雷太の物であってわたしの物じゃない。人の物をのぞき見するほど悪趣味じゃねえ」
警察と怪盗、普通ならば怪盗側がムッと息をこらえるシーンだろうが彼女もそれで怒るほど子供ではなかった。
ここでふとドロテアは一つの疑問に直面する。どうしてオーバーエンドコンテンツの形見をわざわざ自分の預けたのだろう、と。
偶然撃破したのは確かに自分だ。だが実力的には彼の方が上という感情があり、こっちに預けるのはおかしいと思い始める。
「ドロテアさん、そろそろ自信持ってもいいんだよ。今はうちや雷太君の方が強いけど自分は凄い物を感じるから……」
珍しく表情を崩して拳を胸に心臓に当てながらうるっとした視線を与えた。
強がらない風音に思わずドキッと来てしまう。否定しようのない事実。
ちょっと百合の花を匂いを感じる部屋の静寂を破るように書斎の扉は勢いよく開き、埃臭さが四方八方に舞う。
白い髪をしたTシャツ一枚と無地のスカートというまるでファッションに興味ないかのような恰好の彼女が入ってきた。
「ツクモちゃん? どうしたの?」
「風音様とそこの金髪のお方! また『龍』が異世界から!」
強い風が吹き荒れカメラワークは空へ、流れの速い雲が一定の場所に集まってゆく。




