溶けた心
そういえば自身でも気づいていなかったが数時間より前の事を思い出せない。記憶に手を伸ばしてもドロドロを溶けてるようなイメージがある。
湧き出した感情は心臓に虫が蠢いているような胸の中がかゆく気持ち悪い、いわゆる恐怖心で覆い尽くされ瞳孔が小さくなる。
頭を抱えて断末魔で空気を切り裂く。歩美が持っているネクロズ魔法で赤いスープの入った入れ物を、周囲にいる魔法使い達を、この建物自体を腐らせ跡形も無くした。
「私、私どうなっちゃうの! 記憶が無い!」
強い風がピンク色の髪をなびかせ周囲の大地すらも黒く腐ろうとしている。
そこに、サングラスをかけ赤いバンダナをした、赤い毛が見えている男子高校生が鬱陶しそうに歩美の方を睨む。
「お前何者だ。超能力を使うテストがあったら0点だぜ」
もはや声など届いていない。
自分で自分を抱きしめて震えている。既に『答え』に辿り着いていて自我が無くなるという一つの死の未来を暗示した。
「ったく。僕はこの村の人間じゃないが、厄介は片付けないといけない」
右手に拳を作って顔の前まで持ち上げ炎をまとわせる。
動こうとしない歩美に容赦などせず殴りかかろうとした瞬間「ストップ!」と女性の声がして男と歩美の間に別の炎の魔法が水を差すように割って数秒火柱を立てた。
「姉貴、来てたのか」
風音の姿があった。今日のファッションはカラフルなシャツにジーパンと庶民的な雰囲気だ。
「ダメだよー太陽。うちの知り合いなんだからね。ただ、ちょっと記憶が溶けてるだけ」
太陽と呼ばれる男性は頭上にハテナマークを浮かべる。笑顔のまま次の発言を待つ。
軽い足取りで太陽の横へ、震えて動かない歩美に対して優しい笑みで語りかける。
「大丈夫、何があったのか分からないけど丁度ここに連れてこようと思ってたんだ。一緒にいこ?」
顔を上げて風音の顔を見る。視界はぼやけては鮮明になりまた霧がかかるの繰り返し。
激しく振動した声で、虚ろな目で訴えかける。
「誰か分からないけど、助けて欲しい。私が私じゃ無くなっちゃう」
「うん! もうその能力が芽生えてから自我なんて無いから大丈夫! でも、それもここで終わり」
手を差し伸べて歩美を握手をする。そのまま歩きなすがまま目的の場所へと向かう。




