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第5話 ワッショイ!田舎の祭り


 我儘で天真爛漫。それが彼女のアイデンティティだ。僕はそんな彼女でないと物足りなくなっていた。確かに辛い事も沢山あったがそれも全て学ぶ姿勢次第だ。今があるのは間違いなくトモちゃんのお陰である。


 「アンタぁ。また話聞いてない。お母さん拗ねちゃうぞ!」


 一瞬にして現実に引き戻される。何てムカつくぶりっ子だこと。母親が息子に見せるものではない。わざとだろうが少し頭にくる。もちろん聞いてなかった僕が悪い。だから「ごめんね続けて」そう言うとまた同じ話を始めた。


 「トモちゃんは今も美人だよーって事。そんで彼氏がいるだかいないんだかでね…」


 母の話は長い。要約すると、いつまで経ってもボーイフレンドの1人も紹介しない彼女に両親が心配して僕ともう一度会わせようと合作した。僕はそんな風に捉えた。


 「それって…トモちゃんは別に会いたいって言ってないじゃん…」


 何という裏切り行為。喜んで損した。騙されたままの方が気軽に帰れたかもしれない。不安が無性に込み上がってくる。そんな時は、とある事をしないとやってられない。


 話の止まらない母を放ったらかしにして、ペラペラの鞄からA4用紙がたっぷりと挟み込まれたバインダーを取り出した。手に持つのはボールペン。そして思うがままに書き殴る。


 左上にお題とアンダーライン、右上に今日の日付。そしてその下に箇条書きで一文30文字以上、4から6個書いて1分以内。その行為によって素晴らしく頭が整理される。僕はこれを10年間続けている変態メモリストなのである。


 「ふー。よし」


 「…アンタまだそれやってたの?」


 ゾーンに入ったアスリートのように極限の集中が発揮される。キッカケはとある一冊。これのお陰で僕は成功したとも言える。それ程のパワーがこのメモ術には秘められているのだ。


 呆気にとられる母を問い詰めたい気持ちは思考の隅に溶けてなくなる。代わりに真相究明に乗りでる事にした。


 「母さん。トモちゃんの事、もっと聞かせてくれ」


 「…何よ急に改まって。良いわよ」


 そして思う存分語り始める。トモちゃんは休日になると必ず何処かに出かける。父親は男が出来たと焦りを見せるが母親に言わせるとそうでは無いらしい。最寄りの駅まで送り迎えするわけだから。男の気配がすれば即座に勘づく。友達と遊んでいるという彼女の話は本当だと母は語った。けれど話題が急にソレた。


 「あの子は昔から良い子だったからねぇ。変な男が寄って来ても追い返しちゃうんだわきっと。お祭りに運動会も手伝ってくれて…てかアンタ!そんな時に限って一度も帰ってこないじゃない!」


 唐突な説教が始まる。村社会の夏祭りはえげつない。運動会も住民総出で執り行われる。正直苦手だった。けれど彼女はノリノリだったな…。そして又もや深い想い出に花が咲く。


〜14年前〜


 和太鼓と笛の不思議なリズム。ピーヒャラと奏でられる独特のメロディ。一子相伝の如く受け継がれる魂の音色。もう…勘弁して下さい。


 「またズレてる!しっかりして!」


 太鼓と笛を奏でるのは村の子供が担当する。かつては地元一のガキ大将がこぞってやりたがる主役の座だった。特製の神輿に乗せられ漢達がワッショイ!ワッショイ!村中を練り歩く。その間、ひたすらリズムを刻むのだ。地獄である。


 残念ながら僕は楽器との相性が悪いようだ。全然言うことを聞いてくれないのだ。それに対して姫は神に愛されてるんじゃないかと思うぐらい、何を渡されても直ぐに上達する。周りからは天才だと持て囃されていた。


 「全然ダメ!最初からやり直し」


 祭りの時期が近付くと鬼の様に厳しい特訓が始まる。正直一番辛かった。けれど彼女といる時間が長くなる分には嬉しかった。


 「もう…休憩させて…喉カラカラ」


 「仕方ないわね」


 神輿が格納されている蔵がある。その隣にちょっとした公民館があるのだ。行事ごとに使われる設備や備品の殆どがその中に仕舞われている。神社関係はちょっと別だが大体そんなもんである。


 外から大人達がニヤニヤして僕達のやり取りを観ている。「大人になったら2人は結婚する」。爺婆が嬉しそうに雑談し、葬式の前に婚姻式に呼んでくれと、笑いづらいブラックジョークに花を咲かせる。そんな変わらない風景がこの村にはあった。


 「お茶を持って参りました」


 ヘトヘトの僕がお茶を注ぎ。余裕の姫が「宜しい」と言ってそれを飲む。おかしな構図だが今は舎弟の身だ。その後は必ず飲めるから良しとしよう。


 「アンタ、下手な癖に頑張るわね。何で?」


 野暮な質問だ。即答できる。


 「トモちゃんが好きだからだよ」


 彼女は「げぇ〜」と嫌そうなフリをしていたが赤くなった頬が本当の気持ちを表すのであった。


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