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とある探索者達の怪奇譚  作者: 銀闘狼
2/5

赤い部屋2

赤い部屋 後編です


現在、改稿中

 不穏な気配を感じ取り動きを止めた香の目の前で、《パソコンにポップアップしたウィンドウの姿で現れた異常は更に常識と正気を侵食する》。


 触れてすらいないのにも拘わらず、ウィンドウが勝手に消えては現れる事を繰り返す。


 良く見れば、ウィンドウに書かれていた『貴方は|好きですか?』の『は』と『好』の間の隙間が次第に広がっており、何か文字らしき一部が見え始めている。又、視界の端に今時知っている者等殆どいないであろうVHSのテープが劣化した際に映る様なモザイクじみたノイズがチラチラと瞬いており、《気の所為で無ければ室内の色彩が段々と赤っぽくなっている様に思える》。


 (此れは…明らかに不味い!!)


 一先ず事務所から脱出しようと素早く立ち上がり、対応用の向かい合わせのソファと机の向こうにある出入口の扉に駆け寄ると、ドアノブを捻りながら其の勢いのままに身体を扉に叩き付ける。


 しかし、開く筈の扉はまるで完全に溶接でもされて壁と一体化したかの様に、僅かに揺らぎもせずに反動で身体が跳ね返されて思わず其の場で蹈鞴を踏む。


 「ウグッ!?クッ!!」


 少なくとも今日一日は此の事務所に来てからは一度も鍵を閉めた記憶は無い。其れに、仮に鍵を閉めていたにしても勢いを付けた体当たりをして一切揺らぐ事すら無いのは、はっきり云って異常でしか無い。此の調子だと恐らくは窓も開くどころか硝子一枚割れないだろう。


 そうしている間にも視界は明らかに赤みが増して、視界の端にチラついていたノイズは量を増して目の前にも現れ始める。《ノイズを良く見ると、其れは此処で無い何処かの部屋の映像の断片である様に見える》。更に何かが纏わり付いた様に身体が重く感じる。


 (不味い不味い不味い!!)


 脳内で警鐘が喧しい位にがなり立て、焦燥のままにパソコンへと飛び付く。既に『は』と『好』の間に『い部』の文字が完全に出て来ている。此の感じだと時間切れ迄後1分程度しか無いだろう。


 近付く死に身体が竦み上がりそうになる。然し、香の思考は其の逆境を糧に《今迄に無い程研ぎ澄ませられていた》。


 《弱り掛けていた心を奮起させ、纏わり付く邪気を気合で振り払う》。


 明確な思考が浮かぶ前に手が動いて、増え行く文字の下の入力欄に素早く『いいえ』の三文字を入力し、エンターキーを押す。すると、ゆっくりと間隔が開いていた質問の文字が停止したかと思うと、消えて代わりに別の文章が現れる。


 『入居者一覧から貴方の氏名を60秒以内に削除して下さい。削除をされずに制限時間を過ぎた場合、契約に合意した物と見做します』


 此処に来て明確な時間制限が課されるが、今更其の程度の事ではまごつく事は無く、直ぐに『入居者一覧』と書かれたリンクをクリックし、其れを開く。


 切り替わったウィンドウに映るのは、赤地に白文字で羅列された無数の名前だった。


 膨大な数が並ぶ其れを下へと素早くスクロールさせて行くと、果たして最後に『遠山香』の名があった。


 素早くカーソルを合わせてクリックして操作出来る様にすると、香は即座にデリートキーで全ての文字を消去する。そして、名前が消えた時、視界が一変した。


 ――其処は、全てが不気味な赤に染まった薄汚れた木製の壁に何十枚もの御札の様な紙が貼られた、窓の無い何処かの小屋らしき室内だった。


 殆どは一見すると赤一色の縦長の紙切れにしか見えないが、右下辺りに何枚かある毛筆で書かれた様な赤文字で名前らしき物が縦書きされた白い紙に、まるで下から火に当てて出来た焦げの黒を赤に置換した様な不気味な染みが広がっている事から、赤く染まった紙は元々は同じく名前が記された白い紙だったのだろう。


 其の中に半分程迄赤く染まっているものの確かに『遠山香』の名札があった。


 香の名が書かれた札は、下から突然赤く燃え始めると独りでに剥がれ落ちる。ヒラヒラと舞い落ちながら燃えて小さくなる札が床に当たると同時に完全に燃え尽きると、何処からか一言『次は逃さない』と云う低い不気味な声が聞こえた。


 次の瞬間、周囲は事務所に戻っており、目の前にはホーム画面が映し出されたノートパソコンがあった。


 香は警戒しながら10秒、20秒と待って、30秒経っても再びあの忌々しい赤いウィンドウが現れなかった所で、香は漸く終わったのだと判断し、緊張から解放された事で脱力してオフィスチェアに座り込む。


 倒れ込む様に座った衝撃でオフィスチェアが抗議する様に軋むのを無視して背凭れに背中を預けると、右手を顔に当てて深く深く息を吐いた。


 右手を顔から外して首だけで辺りを見回せば、視界を染める赤も瞬くノイズも無く、何の異常も無い事務所の室内が映る。


 此れで終わりかは分からないし、何が切っ掛けで何故香のパソコンに現れたのかは分からないが、一先ずは怪異を退け助かった事を喜ぼうと思う。


 極限の緊張感の反動でかなり身体も怠いし、そうで無くとも明日に備えてサッサと寝たい所だが、冷や汗で濡れた身体が流石に気持ち悪いので、まだやっているかは分からないが近場にある銭湯で流してからにしよう。


 香はそんな事を考えながら今度こそパソコンの電源を落とし、よっこいせとやや年寄り臭い事を呟いて立ち上がり、着替えとタオルをショルダーバックに詰めると事務所を出て、鍵を閉めた。

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