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第43話 ゼントVS大勇者ゲルドン①

 ついにこの日が来てしまった。


 ゲルドン杯格闘トーナメント準決勝──俺、ゼント・ラージェントと大勇者ゲルドンの試合がこれから始まる。


 ゲルドンの息子、ゼボールの言う通りになった。


「俺は棄権(きけん)する。代わりに……多分だけど、親父が出て来るぜ──」


 俺とゼボールのストリートファイトの次の日、大勇者ゲルドンは、息子のゼボールが準決勝を棄権(きけん)したと発表。自分が準決勝に出場すると宣言したのだ……!


 俺は、武闘(ぶとう)リングの上から、王立スタジアムの観客席をながめた。超満員だ。ゲルドンもすでにリングに上がっており、セコンドのクオリファと話をしている。俺のセコンドはミランダさんだ。


 大勇者ゲルドンが準決勝に出ると聞いた、王国の格闘技ファンは、チケットの争奪戦(そうだつせん)をしたらしい。


 俺は武闘(ぶとう)リングの上で、大勇者──いや、幼なじみのゲルドンを見やった。ゲルドンは笑っている。


「おいゼント。20年前のように、優しくいじめてやるぜ? 2分でおめぇをぶっ倒してやるからよ」


 俺は思い出していた。20年前、このゲルドンに宿屋で紅茶をかけられ、踏みつけられた。


 恋人だったフェリシアを奪われた。その後、この男はパーティーメンバーのエルサも、不倫で傷つけた。


 この男には、いろんな思いが詰まり過ぎている──。覚悟しろ、ゲルドン!




 カーン


 試合開始のゴングが鳴った。鳴ってしまった。あっけなく、何事もなかったのように。


「てめーをぶっとばす!」


 ゲルドンは走り込んで、パンチを打ってきた。


 ブン


 右フック! 俺はすぐに()けたが、もの凄い風圧だ。


 ゲルドンの左ストレート!


 ブアッ


 耳もとでパンチがかすめる。これまたものすごい風圧だ。


 まともにくらったら、吹っ飛ぶぞ……!


 これ、人間の力なのか? それとも大勇者の実力なのか?


「おい、ゲルドン、悪魔と契約(けいやく)なんか、してないよな?」


 俺は挑発(ちょうはつ)するつもりで、言った。するとゲルドンはなぜかピクリと俺をにらんだが──。


「うるせええええーっ!」


 ゲルドンは俺の胸のあたりに向かって、タックルに来た。


 ガスゥッ


 俺はそれを受け止める。


 グググ……!


 ゲルドンは俺に抱きつき、倒そうとしている。俺はそれをこらえる。


「てめえ……倒れろよ……!」


 ゲルドンは声を上げた。


「倒れるのは、お前だ!」


 俺は叫んだ。


 ガスッ


 俺はゲルドンのアゴに肘をくらわせた。そしてすかさず、ゲルドンの足を引っかけようとした。


 しかし、ゲルドンもこらえる。


 ゲルドンは重量級、俺は軽量級。かなりの体格差だ。


 しかし、俺は何とかこらえている。


 ガスッ 

 ゴスッ

 ゲスッ


 組つきながら、ゲルドンのボディーブロー。一方の俺は膝蹴(ひざげ)りを返す。お互いに5、6発は組み合いながらの打撃を出し合っただろうか。

 ゲルドンは両肘に青いサポーターをしている。怪我をしているのか? 肘を攻撃にうまく使うのか?

 俺は組み合いながら考えていた。


 じりじりとした、立ったままの組み合い、こらえ合いが続く。


「ゼントも体重差があるのに、こらえてるぜ」

「ゲルドンもさすが大勇者だけあって、一応根性あるな」

「おい、どうでもいいけど、さっさとどっちか、倒せよ!」


 観客はざわつき始めている。


「だああっ!」


 先に動いたのはゲルドンだった。


 強引に俺を横に投げた。


 俺はバランスを崩し、リングに膝をついた。


「もらったぜ!」


 ゲルドンが俺に対して、馬乗り状態をしかけた──が──。


(ここだ! 3、2、1……)


 くるり


 勢いで一回転し、逆に俺が馬乗りの体勢になった!


 ウウオオオオッ……。


 観客が騒ぎ出す。


「な、なんだと」


 ゲルドンが声を上げる。


 俺は、ゲルドンが勢いをつけて、格闘技における最も有利な体勢──馬乗り状態を狙ってくると予想していた。


 その勢いを利用して、逆に馬乗り状態にさせてもらった、というわけだ。


 ガスウッ


 俺はすぐに、ゲルドンを上から(なぐ)った。


「あぐ」


 ゲルドンが声を上げる。

 

 ゴスッ


 もう一発!


「のやろおおおっ!」


 ゲルドンは暴れ、馬乗り状態の俺から、逃げ出した。


 悪いな、それも想定内だ!


 俺は座って背中を向けているゲルドンの首に、右腕を巻きつけた。


 チョークスリーパー! つまり腕による首絞め──頸動脈(けいどうみゃく)を締める技だ!

 

 ぐぐぐぐぐ……。


 これが決まれば……ゲルドンは「まいった」するはずだが……!


 しかし、ゲルドンは力によって、俺の腕を外し、逃げ出した!


 くっ! やはりゲルドンの力が強い……!


 俺たちは立ったまま、またにらみ合った。


「う、うおおおっ……」

「ゼント、やるじゃねえか?」

「ゲルドンもさすが、大勇者だぜ」


 観客たちのため息が聞こえる。


「てめぇ……なんでそんなに強くなったんだ……!」


 ゲルドンはそう言いつつ、右アッパー! しかし、俺はそれをかわす。


 ゲルドンはあわてている!


(ここだ!)


 俺はグッと体重をかけ、ゲルドンの(ほお)めがけ、左ジャブ!


 ガスッ


 当たった! そして、渾身(こんしん)の右ストレート!


 ゲシッ


「ガフッ」


 ゲルドンはのけぞった。しかし──。


「そんなパンチは()かねえんだよおおおおっっっ!」


 ゲルドンは猛獣(もうじゅう)のように()えた。そして、ふらつきを振り切るように走り込んで、超大振りの左フックを放ってきた!


 ブウンッ


 まるで風車だ──、しかし! 


 ゲルドンが走り込んできた勢いを利用して──! 俺は打撃を放った!


 グワシイイッ


 手の平の下部を利用した、俺独自の打撃法である──右掌底(みぎしょうてい)


「ぐへ」


 ゲルドンは見事に、俺の掌底(しょうてい)をアゴに受け、片膝(かたひざ)をついた。


「マ、ジ、か……」


 ゲルドンは目を泳がせながら、俺を見上げる。


 ウオオオオオオオオーッ


 観客席が騒然となる。


「大勇者のダウンだ! や、やりやがったああああーっ!」

「ゼント、すげええええーっ!」

「大勇者、やべえぞ! どうなる? どうなる?」


『ダウンカウント! 1…………2…………3……!』


 ゲルドンはふらつきながらも体を起こし、リングに張りめぐらされたロープを利用して、立ち上がろうとした。


 しかし、足元がおぼつかない。アゴへの打撃が効いているのだ。


『4…………5…………6…………7!』


 し、しかし、何て遅いダウンカウントだ! 審判団め、ゲルドンの味方なのか?


「フフフッ、助かったぜ。カウントが遅いからよ」


 ゲルドンはそう言って、中腰になって、両膝(りょうひざ)に手をつき──。勢いをつけて、立って構えた!


「立ったぞお! どうだ、立ったぞ!」


 ゲルドンは叫んで、審判団にアピールした。審判団も納得して、カウントをやめた。俺は、嫌な予感がしていた。

 審判団は……ゲルドンの味方だ!


「おおおおーっ! やっぱり立ったぜ」

「おい、何かダウンカウントが遅くなかったか?」

「ああ……変なカウントだったが、さすが大勇者」


 観客たちはざわつきながらも、声を上げる。


「俺を怒らせちまったようだな」


 大勇者ゲルドンはニヤリと笑った。


「うっ……?」


 俺は目を丸くした。


 何と、ゲルドンの体から、闇色(やみいろ)のもやのようなものが発生している。


 な、何だ? これは?


 蜃気楼(しんきろう)──? いや、これが「オーラ」「闘気(とうき)」ってヤツなのか?


 それにしては、何て禍々(まがまが)しいんだ! 不気味なんだ!


「こうなるとヤベえぞ」


 ゲルドンはクスクス不気味に笑った。

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